認知症と向き合うために知っておきたい中核症状と行動・心理症状(BPSD)

年齢を重ねるほど発症する可能性が高まる認知症。「自分や家族が認知症になったらどうしよう...」「もしかしたら認知症では?」と心配な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は「ご自身やご家族の認知症に備えておきたい」「認知症の症状について知りたい」「認知症の人との接し方が分からない」という方に向けて、認知症の基礎知識や主な症状、認知症の方と接するときのポイントなどをお伝えします。

認知症とは

認知症とは

そもそも認知症とはどのような病気なのでしょうか。
認知症は、脳の病気や障害などの原因によって認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態(およそ6カ月以上継続)をいいます。
年をとるほど認知症になりやすくなりますが、65歳未満でも若年性認知症を発症することがあります。

認知症を引き起こす原因はさまざまで、「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」などいくつかの種類があります。
認知症の症状は「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」の2つに大きく分けられます。

急速に高齢化が進んでいる日本では、認知症の患者数も増え続けています。2020年の65歳以上の認知症の方の数は約600万人となっており、2025年には約700万人(ご高齢者の約5人に1人)に達すると予測されています。


▼関連記事:
早期発見・対応が重要!65歳未満の人が発症する「若年性認知症」

認知症の原因と主な症状

認知症にはさまざまな種類がありますが、代表的なのは「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」の4つです。ここからは、認知症の種類別に原因と主な症状について解説します。


アルツハイマー型認知症

認知症の原因となる病気のひとつがアルツハイマー病です。脳の中に「アミロイドβ(ベータ)」というタンパク質がたまり、脳神経が変性して脳が萎縮することで発症すると考えられています。
認知症の中で最も多いといわれるアルツハイマー型認知症は、ゆっくりと進行することが特徴です。
最初は記憶障害(もの忘れ)から始まることが多く、同じことを何度も聞くなどの症状がみられます。このほかにも、失語(ものの名前が出てこないなど)や失認(目で見えているものが何か分からない)、失行(運動機能に問題がないのに今までできていた動作ができない)などの症状がみられることがあります。


血管性認知症

血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって起こる認知症です。症状は損傷を受けた脳の部位によって異なります。
記憶障害(もの忘れ)があっても一部の認知機能は保たれることが多いのが特徴で、「まだら認知症」とも呼ばれています。
認知症の症状のほかに、手足の麻痺(まひ)などの身体的な症状を伴うこともあります。また、アルツハイマー型認知症を合併していることもあります。


レビー小体型認知症

レビー小体(しょうたい)型認知症の原因は、脳に「レビー小体」という物質がたまることです。
記憶障害(もの忘れ)のほかに、認知機能の変動(頭がはっきりとしている状態とボーっとしている状態を周期的に繰り返す)、幻視(人や動物など実際にはいないものが見える)、パーキンソン症状(手足が震える・歩きにくい・歩幅が小刻みになって転びやすい・姿勢が前かがみになる)、睡眠時の異常行動(夢を見て大声で叫んだり暴れたりする)などの症状を伴うことがあります。
また、自律神経症状(立ちくらみ・便秘・倦怠感など)や抑うつの症状がみられることもあります。


前頭側頭型認知症

前頭側頭(ぜんとうそくとう)型認知症は、脳の前頭葉と側頭葉が萎縮することで発症します。
発症年齢が比較的若く、初期にほかの認知症ではあまりみられない症状が現れることが特徴です。
主な症状には、不適切な行動をとる(万引き・信号無視など)、感情の抑制がきかなくなる、同じ行動パターンを繰り返す、毎日同じものを食べる、何でも口に入れるといったものがあります。また、言葉がわからなくなる、人の顔が認識できない、声を出すことが難しくなるなどの症状がみられることもあります。
前頭側頭型認知症は「指定難病」に認定されています。




認知症の「中核症状」とは

② 認知症の「中核症状」とは

中核症状とは、認知機能が低下したことによって起こる症状のことです。記憶障害(もの忘れ)、見当識障害、理解力や判断力の低下、実行機能障害、失語、失認、失行などがあり、ほぼすべての認知症の方にあらわれます。

年をとれば誰でも「最近忘れっぽくなったな...」と感じることはあるかと思います。「もしかして認知症?」と心配になってしまうかもしれません。
認知症かどうかを見分けるのはとても難しいことですが、「認知症によるもの忘れ」には「加齢によるもの忘れ」と異なる点があります。
「認知症によるもの忘れ」の場合は、体験したこと自体を忘れてしまい、もの忘れの自覚が乏しくなります。そして日常生活に支障をきたしてしまうことが特徴です。
「加齢によるもの忘れ」の場合は、もの忘れを自覚していて、後から思い出すこともあります。新しいことを覚えることもできますし、日常生活に支障をきたすことはありません。


▼関連記事:
「認知症によるもの忘れ」と「加齢によるもの忘れ」の違いとは?




「中核症状」の具体例

では、具体的にどのような症状があらわれるのでしょうか。ここからは中核症状についてそれぞれ詳しくみていきましょう。


記憶障害(もの忘れ)

・新しいことを覚えられない
・数分前、数時間前の記憶が残らない
・同じことを何度も聞いたり言ったりする
・買い物へ行って同じものを何度も買ってくる
・しまい忘れや置き忘れが増える
・探し物が見つからないと「誰かが盗った」などと他人を疑う


見当識障害

・時間や場所がわからなくなる
・慣れた道でも迷ってしまう
・季節感のない服を着る


理解力や判断力の低下

・テレビの内容が理解できなくなる
・運転などのミスが多くなる
・貯金の出し入れができなくなる
・会話のつじつまが合わない


実行機能障害

・仕事や家事の段取りが悪くなる
・料理がうまく作れなくなる
・身の回りのことができなくなる


失語・失認・失行

・ものの名前が出てこない
・音として聞こえていても話がわかりにくい
・目で見えているものが何か分からない
・今までできていた動作ができない





認知症の「行動・心理症状」とは

行動・心理症状とは、「中核症状」に伴ってあらわれる症状のことです。BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)または「周辺症状」と呼ばれることもあります。


行動症状 心理症状
・暴言
・暴力
・拒絶
・不潔行為
・徘徊(はいかい) など
・抑うつ
・不安
・幻覚
・妄想
・睡眠障害     など

行動・心理症状の背景には、中核症状によって生じる不安や焦り、ストレスなどが存在します。加えてご本人の性格や身体の状態、生活環境、人間関係などが関わっているため、症状のあらわれ方には個人差があります。また、周囲の方の適切な対応や環境の調整などにより改善することもあります。 中核症状とは異なり、すべての認知症の方にあらわれるわけではありません




「行動・心理症状」の具体例

「行動・心理症状」の具体例

行動・心理症状の例として、次のようなものがあります。

・以前よりも怒りっぽくなった
・疑い深くなった
・暴言や暴力がみられる
・ふさぎこんで何をするのも億劫がる
・趣味や好きなテレビ番組に興味を示さなくなった
・ひとりになると不安で寂しがったりする
・実際にはないものが見えると主張する
・外出中に目的を忘れてしまい帰れなくなる 
   





認知症が疑われるサインに気づいたら


ご自身やご家族が「もしかしたら認知症?」と感じても、病院に足を運ぶのは勇気がいることかもしれません。また「どこに相談すればよいのか分からない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

認知症もほかの病気と同じように早期発見・早期治療が大切です。症状が軽いうちに適切な治療やケアを受けることによって、進行を遅らせることができる場合もあります。早めに専門家に相談すれば、ご家族や身近な方が正しい知識を得て、今後の生活に備えることもできます。
認知症が疑われるサインに気づいたら、まずはかかりつけ医や専門医に相談しましょう。

なお、認知症の前段階と考えられている軽度認知障害(MCI)という状態もあります。認知症のように日常生活に支障をきたすほどではなくても、もの忘れの程度が少し強いと感じる場合は、軽度認知障害(MCI)の可能性も考えられます。



軽度認知障害(MCI)とは

軽度認知障害(MCI)は、正常と認知症の中間ともいえる状態のことです。
主な症状は記憶障害(もの忘れ)ですが、日常生活への影響はほとんどなく、認知症とは診断できない状態を指します。
軽度認知障害と診断された方の約半数は5年以内に認知症に移行するといわれています。すべての方が認知症になるわけではありませんが、この段階から対策をとることで認知症の発症を遅らせることが期待できます。


軽度認知障害(MCI)のサイン

・以前と比べて、もの忘れなどの認知機能の低下がある
・本人が自覚している、または家族などによって気づかれる
・もの忘れが多いという自覚がある
・日常生活にはそれほど大きな支障をきたしていない

▼関連記事:
認知症の前段階といわれる軽度認知障害(MCI)の基礎知識



受診するときのポイント

・ご家族などが付き添う
ご本人の普段の様子をよく知っているご家族などが付き添うとよいでしょう。 「以前と違うな」「何かおかしいな」と感じたこと、具体的な症状、日常生活で困っていることなどをメモしておくと受診時に役立ちます。

・メモやお薬手帳を持参する
気になる症状などを書いたメモ、病歴や服用中の薬などをまとめた「お薬手帳」を持っていきましょう。



主な相談先

・かかりつけ医

・医療機関の「もの忘れ外来」
公益社団法人 認知症の人と家族の会「全国もの忘れ外来一覧」


・認知症に関する専門医
日本認知症学会認定専門医
老年精神医学会認定専門医


・認知症疾患医療センター
東京都認知症疾患医療センター一覧


・地域包括支援センターなど
介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」


・若年性認知症コールセンター
電話番号 0800-100-2707
受付時間 午前10時~午後3時(月~土 ※年末年始・祝日除く)


・若年性認知症に関する相談窓口
社会福祉法人 仁至会 認知症介護研究・研修 大府センター「若年性認知症に関する相談窓口一覧」




認知症の方との接し方

認知症の方との接し方

認知症と診断されたとき、ご本人はもちろん、身近な方も大きなショックを受けることでしょう。ご家族にとって、自分の名前や顔を忘れられてしまうのはとてもつらいことです。同じことを何度も聞かれてイライラしたり、不可解な言動に戸惑ったりすることもあるかと思います。
ここからは、認知症の方が尊厳のある生活を続けられるよう、ご家族や身近な方ができることや接し方のポイントをお伝えします。


自尊心を傷つけない

対応に困ったときも、まずはご本人の気持ちを否定せずに受け止めて、自尊心を傷つけないことが大切です。
同じことを何度も聞いてくるときは、初めて聞かれたときと同じように答えましょう。
認知症の方は不安や混乱を抱えており、不可解な言動にもその方なりの理由や目的があることが多いものです。そのことを理解すると、余裕をもって対応できるようになるかもしれません。


できることを活かす

認知症になると苦手なことが増えていきますが、すべてのことができなくなるわけではありませんし、何もかも忘れてしまうわけではありません。
できないことばかりに目を向けず、できることや得意なことを活かしましょう。ご家族や身近な方はさりげなく手助けをして、ご本人の自信につなげていきましょう。


急がせない・驚かせない

認知症の方は急かされるのが苦手です。静かな環境を整え、ご本人のペースに合わせるようにしましょう。話しかけるときは正面から近づき、相手の視野に入ってから声をかけます。


ゆっくりとひとつずつ話す

コミュニケーションをとるときは、目線を同じ高さになるように合わせ、相手の話をじっくりと聴きます。話しかけるときは、穏やかな声で、ゆっくり、ひとつずつ伝えましょう。
ご本人が好きなことを話題にしたり、なじみのある言葉(方言など)を使ったりすることも大切です。優しく触れるスキンシップを取り入れるのもよいでしょう。


▼関連記事
自尊心を傷つけない認知症の方とのコミュニケーション方法
認知症の方とのコミュニケーション法「バリデーション」とは?
認知症の改善を目指す「リアリティ・オリエンテーション」とは
認知症の方の心をつかむケア技法「ユマニチュード」とは
認知症ケア技法「ユマニチュード」を実践するための5つのステップ
認知症の方と一緒に楽しむレクリエーション・プログラム
認知症の予防・改善効果も期待できるアートセラピー(芸術療法)
言語障がいのある方とのコミュニケーションのポイント


認知症の方を介護するのはとても大変なことです。ご家族だけで抱え込まず、介護保険などのサービスを利用して、ご自身の時間も大切にしてください。専門家に相談できる地域包括支援センター、仲間づくりや情報交換ができる認知症カフェなども大きな支えとなるでしょう。


▼関連記事
認知症対応型通所介護(認知症対応型デイサービス)とは
認知症とともに生きる方やご家族のための「認知症ケアパス」
認知症の方も暮らしやすい地域をつくる「認知症サポーター」
認知症の方やそのご家族を地域で支える「認知症カフェ(オレンジカフェ)」
今後さらに必要性が高まる「成年後見制度」を利用するときのポイント

ライター:樋口 くらら
家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。

認知症と向き合うために知っておきたい中核症状と行動・心理症状(BPSD)

Facebookページで
最新記事配信!!

あなたにおすすめの記事

関連記事

介護の基本のおすすめ記事