言語障がいのある方とのコミュニケーションは難しく、どうしたらよいかわからないと悩む介護者も多くいらっしゃいます。しかし、言語障害の種類や特徴に合わせた接し方をすることで、うまくコミュニケーションがとれるようになります。今回は言語障害の種類や、それぞれの特徴に合わせたコミュニケーションのポイントについて解説します。
言語障害とは

言語障害とは、言葉の理解から表出に至るまでの過程で、何かしらの障害があり、コミュニケーションが困難になる状態のことをいいます。原因は、病気や障害、外傷によるもの、心因性のものなど多岐にわたります。ご高齢者の場合は、脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など)や認知症などが主な原因です。
ひとくちに「言語障害」といっても種類や症状は多様ですが、代表的なものとして「構音障害」と「失語症」があります。
構音障害とは
「構音障害」とは、発音・発声する器官(口唇・舌・声帯・口蓋垂など)がうまく機能せず、言葉を正しく発音できない状態のことです。
言葉の理解力に問題はないため、読み書きはできますが、「呂律(ろれつ)が回らない」「声が出にくい」「話し方がぎこちない」などの症状がみられます。また、摂食・嚥下(飲み込む)障害が生じることもあります。
構音障害は「運動性構音障害」「器質性構音障害」「機能性構音障害」の3つに大別されます。
・運動性構音障害脳卒中の後遺症などにより、口、唇・舌などの動きを思ったように調整できず、うまく発音することができない状態
・器質性構音障害病気やケガにより、発声発語器官の形状に異常が生じ、うまく発音することができない状態
・機能性構音障害運動性や器質性のような明らかな異常・原因は認められないが、うまく発音することができない状態
失語症とは
「失語症」とは、大脳の言語中枢が損傷されたために、「話す」「読む」「書く」「聞いて理解する」などの言葉の機能が低下する状態のことです。
失語症は「失名詞失語」「ブローカ失語」「ウェルニッケ失語」「全失語」の4つに大別されます。
・失名詞失語(健忘失語)最も軽度の失語症です。言葉を聞いて理解する力は保たれていますが、物や人の名前が出てこないことがあります。
・ブローカ失語(運動性失語)脳のブローカ野が損傷した場合に生じます。言葉を聞いて理解する力は保たれていますが、流暢に話すことや復唱することが困難な傾向があります。右片麻痺(右半身のまひ)を伴うことが多くあります。
・ウェルニッケ失語(感覚性失語)脳のウェルニッケ野が損傷した場合に生じます。流暢に話すことができますが、錯語(さくご)やジャーゴン(無意味な言葉)が混ざる場合があります。言葉を聞いて理解する力が低下し、復唱することが困難な傾向があるため、言葉のキャッチボールが成り立たない場合があります。
・全失語「話す」「聞く」「読む」「書く」といった機能のすべてが困難な状態です。
コミュニケーションが難しくなりますが、状況を理解する力は保たれていることもあります。
言語障がいのある方とのコミュニケーションのポイント

「構音障がい」のある方との接し方
構音障がいのある方は、基本的に言語知識には問題がありませんので、相手が思っていることを伝えやすいよう、コミュニケーションのとり方を工夫することが重要です。
話し言葉だけでのコミュニケーションが難しい場合は、紙や磁気ボードなどに書く(筆談する)ことでコミュニケーションが図れます。書くことが難しい場合は、コミュニケーションボード(50音表)、スマートフォン・パソコン・タブレット・意思伝達装置などのツールを用いることでスムーズに伝え合うことができます。
また、姿勢を安定させたり、テレビの音量を下げて雑音を少なくしたりするなど、相手が話しやすい環境を作ることも大切です。
「失語症」の方との接し方

ゆっくりと、短くわかりやすい言葉で話しかけましょう。言葉で伝わりにくいときは、写真や絵カード、ジェスチャーなどを用いて話し、なかなかイメージが伝わらないときは、実物を指で指して具体的に伝えます。一度で伝わらない場合は、繰り返し話し、伝え方を工夫しましょう。
スマートフォンやパソコン・タブレットなどがコミュニケーションに役立つこともありますが、構音障がいの方に有効なコミュニケーションボード(50音表)は、失語症の方には向いていません。
また、相手が言いたいことを伝えようとしているときは、ゆったりとした気持ちで待ち、先回りして話さないことも大切です。
うまく話せない様子のときは、言葉(言語)以外の、装い・表情・目線・姿勢・動作などによる「非言語コミュニケーション(ノンバーバルコミュニケーション)」から伝えたい内容を酌み取るのもよいでしょう。なかなか言葉が出にくいときは、「はい」「いいえ」で答えられるよう、質問の仕方を工夫しましょう。
重要な内容を伝えたときは、正しく理解しているかきちんと確認をすることも大切です。
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失語を伴う認知症の方との接し方
認知症の方で失語症状がある場合は、「失語症」だけの場合と異なる視点でのコミュニケーションが必要です。言葉をかけるときは、「どこまで理解しているのか」「どのようなときに理解・意思を示すか」「どのような方法で意思を示すか」をよく観察します。
ご本人の身体状況により言葉を話せるときと、うまく話せないときの差が大きいこともありますが、ご本人のペースに合わせながら、臨機応変に対応をしましょう。
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ICTサービスの活用
最近は、スマートフォンやタブレット端末で利用できる便利なコミュニケーションアプリも増えてきています。
「第45回 国際福祉機器展レポート」でご紹介した「指伝話(ゆびでんわ)」は、失語症の方の会話補助や言語訓練、構音障がいのある方の会話補助のほか、幅広い場面で活用できるコミュニケーションアプリです。

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「言葉」は私たちがコミュニケーションをとる上で欠かせないものです。自分の想いをスムーズに相手に伝えることができなかったり、相手の言葉が理解できなかったりすると、精神的に落ち込むことがあります。不安や自分自身へのもどかしさが、怒鳴る、暴れるといった表現方法になってしまう場合もあります。
言語障がいの方には、ご本人の気持ちを理解して温かく接することが大切です。間違いを指摘したり、子ども扱いをしたりせず、ご本人の人格を尊重しましょう。
また、言語以外の保たれている能力を活かし、できること、得意なことを楽しんでいただきましょう。
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