認知症の方の心をつかむケア技法「ユマニチュード」とは

認知症ケアのひとつとして知られる「ユマニチュード」。フランスで生まれて39年の歴史を持ち、日本の医療機関や介護施設でも普及しつつあります。フランス語で「人間らしさ」を意味する「ユマニチュード」とは、どのようなケア技法なのでしょうか。今回は、ユマニチュードの概要と基本技術についてお伝えします。

ユマニチュードとは

ユマニチュードとは

ユマニチュード(Humanitude)とは、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションに基づいたケア技法です。フランス語で「人間らしさ」を意味する「ユマニチュード」には、「人間らしさを取り戻す」ということも含まれています。

ユマニチュードは、1979年にフランスの体育学教師だったイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏の2人が創出しました。
ユマニチュードの研究・教育を行うジネスト・マレスコッティ研究所は、フランス国内に14支部、ベルギー・スイス・ポルトガル・ドイツ・カナダ・日本などに国際支部があります。日本支部は 2014年に誕生し、介護・医療関係者から介護をするご家族、一般の方々を対象に講演や研修、ケア実践などを行っています。


ユマニチュードが目指すこと

ユマニチュードは、「人とは何か」「ケアをする人とは何か」を問う哲学と、それに基づく実践的な技術から成り立っています。
この技法の特徴は、ケアの対象となる人の「人間らしさ」を尊重し続けるということです。ケアをする人は、ケアを受ける人に、たとえ反応がなくても「あなたを大切に思っています」「あなたはここにいますよ」というメッセージを発信し続けます。

具体的には、「見る」「話す」「触れる」「立つ」という人間の特性に働きかけ、ケアを受ける人に「自分は人間である」ということを思い出していただきます。そして、ケアを通じて、言葉によるコミュニケーションが難しい人とポジティブな関係を築いていくのです。その結果として、下記のような効果的な事例がみられることがあります。

・攻撃的とみなされていた方がケアを受け入れるようになった
・言葉を発しなかった方が再び話すようになった
・寝たきりの状態だった方が立ち上がり、歩けるようになった   など

ユマニチュードが目指すこと

重要なポイントは「ご本人のレベルに応じたケアを本当に提供しているかどうか」です。ケアを行うときは、お一人おひとりの心身状態を見極めて最適なケアを行います。
ケアレベルの設定では、「ご本人に害を与える可能性のあることは行わない」ことが大切になります。ユマニチュードでは、「忙しいから」「転ぶと危ないから」などの理由で行ってしまう強制的なケアをゼロにすることを目指します。

ケアのレベル

① 回復を目指す

たとえば清拭(せいしき)の場合、少しでも立位保持が可能な方には立っていただいて行います。こうすることで筋力の低下を防いだり、関節の可動域を大きくしたりできます。

② 機能を保つ

たとえば歩ける方なら、移動するときに車いすを使わずに歩いていただきます。もし途中で車いすが必要になるとしても、歩けるところまで歩くことで現在ある機能を維持します。

③ 最期まで寄り添う

末期がんなどで健康の回復や機能の維持が難しい場合は、できるかぎり穏やかに過ごせるように寄り添います。しかし、たとえ緩和ケアであっても、ご本人の残っている力を奪わないようにすることが大切です。

ユマニチュードの「4つの柱」

ユマニチュードの「4つの柱」

見る

水平に目を合わせて、正面から、顔を近づけて、見つめる時間を長くとるようにします。
水平な高さは「平等」、正面の位置は「正直・信頼」、近い距離は「優しさ・親密さ」、時間の長さは「友情・愛情」というポジティブなメッセージになります。
ユマニチュードでは、ベッドに寝ている方が壁側を向いていたらベッドを動かしてでも正面から近づき、視線をつかみにいきます。

話す

ポジティブな言葉を用いて、優しいトーンで、穏やかに、歌うように話しかけます。返事やうなずきなどの反応がない場合は、「オート(自己)フィードバック」という技法を用いてみます。
オートフィードバックとは、自分の行っているケア内容を実況中継することです。たとえば「これから腕を洗いますね」「温かいタオルを持ってきました」「肩から洗いますね」「あったかくなりましたね」「気持ちいいですか」などの言葉をかけ続けます。

触れる

ポジティブな雰囲気でゆっくりと、手のひら全体で広い面積で、なでるように優しく触れます。触れるときは飛行機が着陸するイメージで、手を離すときは飛行機が離陸するイメージです。移動の際は10歳の子ども以上の力は使わず、身体のある部分を動かす際は、5歳の子ども以上の力を使わないように意識し、力づくで行わないようにします。

手や顔、唇などの敏感な部位にいきなり触れると驚かせてしまうため、最初は上腕や背中などから触れましょう。
また、手首や足をつかむとネガティブなメッセージを伝えてしまいます。ケアを行うときは親指を手のひらにつけて、無意識につかんでしまわないように注意することが必要です。

立つ

「立つ」ことには、骨に荷重をかけて骨粗しょう症を防いだり、筋力の低下を防いだりする生理的メリットがあります。また、血液循環を改善し、肺の容量を増やすこともできます。

ご高齢者は、3日~3週間ほどで寝たきりになってしまう場合があります。ケアが必要なご高齢者には、立って歩く機会を1日20分程度つくることが必要です。

たとえば40秒間の立位保持が可能な方なら、40秒立っていただいている間に、清拭や洗面、歯みがき等のケアの一部を行うことができます。近くにいすを用意して、立位や座位を組み合わせるなどの工夫をしてみましょう。それぞれの時間を合わせれば、20分ほど立っている時間をつくれます。



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ライター:樋口 くらら
家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。

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