高齢化が進み、認知症は誰もが関わる可能性のある身近な病気になりました。国は、認知症の方の介護者への支援策の一つとして「認知症カフェ(オレンジカフェ)」等の設置を推進しています。今回は、誰でも気軽に参加できる認知症カフェ(オレンジカフェ)についてわかりやすく解説します。
認知症カフェ(オレンジカフェ)とは?
認知症カフェは、認知症の方やそのご家族、介護・医療の専門職、地域の方など誰でも気軽に参加でき、安心して過ごせる集いの場所です。「オレンジカフェ」「メモリーカフェ」「ふれあいカフェ」など、親しみやすい名称を用いているところもあります。
認知症カフェは、1997年に認知症ケア先進国であるオランダの「アルツハイマーカフェ」から始まり、ヨーロッパを中心に広がっていきました。
日本では2012年に認知症施策の「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」が発表され、そのモデル事業ではじめて「認知症カフェ」という名称が用いられました。その後、2015年策定の「認知症施策推進総合戦略〜認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて〜(新オレンジプラン)」に主な政策として位置づけられたことから急速に広まり、現在も全国で設置の動きが進んでいます。
認知症カフェの運営主体
認知症カフェを運営しているのは、市区町村や地域包括支援センター、社会福祉協議会、介護事業所、医療機関、NPO法人、喫茶店などさまざまです。スタッフとしては介護・医療の専門職や民生委員、認知症サポーター、ボランティアの方などが支援しています。
認知症カフェの設置や運営の基準等は設けられておらず、基本的に誰でも開催することが可能です(基準を設けている自治体もあります)。
認知症カフェの内容
認知症カフェの内容についても特に指定はないため、プログラムや開催の頻度、時間等は各カフェによって異なります。主にカフェタイムや介護相談、アクティビティ(体操・園芸・手芸など)が行われていますが、地域の特性やニーズに応じて工夫をしているカフェや、特に何も行わないカフェもあるようです。
開催場所としては、介護事業所や医療機関、公民館、団地の集会所、民家、店舗などが活用されています。費用は、無料~数百円で開催しているところがほとんどです。
認知症カフェの課題
認知症のご高齢者数は増え続けており、2025年には約700万人(65歳以上の方の約5人に1人)になると見込まれています。このような深刻な状況のなか、認知症カフェが担う役割はさらに重要になっていくと思われます。
しかし、「参加者が少ない」「地域の理解が乏しい」などの課題も見え始めてきました。また、長期にわたる認知症カフェの運営は経費がかさむため継続が難しく、専門職の負担が増加するなどの課題も浮き彫りになっています。
「オレンジプラン」とは?
以前、認知症は「痴呆」などと呼ばれ、人権や病気に対する理解も不十分でした。また、精神科病院や施設を中心としたケアが行われていました。
そこで厚生労働省は「認知症の人は精神科病院や施設を利用せざるを得ない」という考え方を改め、「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」の実現を目指し、2012年に「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」を策定しました。
そして、団塊世代が75歳以上となる2025年を見据えて、認知症施策を加速させるための新たな戦略が2015年に策定されました。これが「オレンジプラン」を修正した「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)」です。
新オレンジプランの7つの柱
- ① 認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進
- ② 認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供
- ③ 若年性認知症施策の強化
- ④ 認知症の人の介護者への支援
- ⑤ 認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進
- ⑥ 認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発及びその成果の普及の推進
- ⑦ 認知症の人やその家族の視点の重視
認知症カフェは、「オレンジプラン」の策定時に、認知症の人やその家族等を支援する政策のひとつとして打ち出されました。
さらに「新オレンジプラン」には、認知症カフェ等の設置について「2018(平成30)年度からすべての市町村に配置される認知症地域支援推進員等の企画により、地域の実情に応じて実施」することが目標として掲げられています。
認知症カフェ(オレンジカフェ)の効果
認知症の方にとって、認知症カフェは、ご自身のペースで過ごせる交流の場となり、心理的な安定につながるなどの効果が期待できます。
ご家族にとっては、気軽に立ち寄れるカフェでありながら、介護に関する悩みや不安を専門職に相談できる場所です。情報交換や仲間づくりの場としても利用され、孤立・閉じこもりの防止、負担感の軽減などの効果がみられています。
また、専門職にとっては学びの場、多職種や地域との協同の場に、地域住民にとっても認知症への理解が深まったり、やりがいを感じられたりする場になっています。
認知症カフェの要素7つ
- 【要素1】認知症の人が、病気であることを意識せずに過ごせる。
- 【要素2】認知症の人にとって、自分の役割がある。
- 【要素3】認知症の人と家族が社会とつながることができる。
- 【要素4】認知症の人と家族にとって、自分の弱みを知ってもらえていて、かつそれを受け入れてもらえる。
- 【要素5】認知症の人とその家族が一緒に参加でき、それ以外の人が参加・交流できる。
- 【要素6】どんな人も自分のペースに合わせて参加できる。
- 【要素7】「人」がつながることを可能にするしくみがある。
認知症カフェ10の特徴
- 1.認知症の人とその家族が安心して過ごせる場
- 2.認知症の人とその家族がいつでも気軽に相談できる場
- 3.認知症の人とその家族が自分たちの思いを吐き出せる場
- 4.本人と家族の暮らしのリズム、関係性を崩さずに利用できる場
- 5.認知症の人と家族の思いや希望が社会に発信される場
- 6.一般住民が認知症の人やその家族と出会う場
- 7.一般の地域住民が認知症のことや認知症ケアについて知る場
- 8.専門職が本人や家族と平面で出会い、本人家族の別の側面を発見する場
- 9.運営スタッフにとって、必要とされていること、やりがいを感じる場
- 10.地域住民にとって「自分が認知症になった時」に安心して利用できる場を知り、相互扶助の輪を形成できる場
出典:認知症カフェのあり方と運営に関する調査研究事業 報告書(公益社団法人 認知症の人と家族の会)
「認知症カフェに行ってみたい」「スタッフとしてお手伝いしたい」という方は、市区町村のホームページをチェックしてみてください。また、「認知症カフェを開催してみたい」という方も、まずは市区町村に相談してみましょう。自治体によっては、設置・運営への助成や周知広報、専門職の紹介などの支援を行っているところもあります。
<参考>
厚生労働省
「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」(平成25年度から29年度までの計画)
認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(概要)・本文付き
認知症カフェの実態に関する調査研究事業報告書
家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。
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