認知症の方とのコミュニケーション法「バリデーション」とは?

「バリデーション」とは、もともと「検証・証明・承認・妥当性確認」などという意味を持つ言葉で、さまざまな業界で使用されています。介護の現場では、認知症の方とコミュニケーションをとるための方法のひとつとして活用されています。
今回は、認知症ケアのひとつ「バリデーション」とはどのようなものなのかを解説し、その考え方や期待できる効果、基本的なテクニックなどについてもお伝えします。

介護業界における「バリデーション」とは

介護業界における「バリデーション」とは

介護業界における「バリデーション」とは、アルツハイマー型認知症と類似の認知症のご高齢者とコミュニケーションをとるための方法のひとつで、認知症の方の言動や行動を意味のあることと捉え、認め、受け入れることをいいます。
「バリデーション」はご高齢者が尊厳を回復し、引きこもりに陥らないよう援助する方法として、1963年にアメリカのソーシャルワーカーであるナオミ・ファイル氏により提案されました。日本では、2003年にアジアで初めてバリデーショントレーニング協会(VIT)が正式に認可するトレーニング過程が開講されました。

バリデーションが目指すもの

・ご高齢者の感情表出を促す
・ご高齢者の「人生の未解決の課題」への奮闘を支援する

認知症の方に対するアプローチ方法のひとつとして、ご本人の感情にはできるだけ触れず、穏やかに過ごしていただこうとするものもあります。しかし、「バリデーション」では、認知症の方のマイナスの感情(悲しみ・怒り・怖れ・不安など)にもふたをせず、むしろ表出を促して共感していくことを目指します。

また、認知症のご高齢者の「人生の未解決の課題(やり残したこと・心の傷になっていること・大切な人との死別や離別など)」への奮闘を支援することであるとも表現されています。

介護者は、「老年期」という最後のステージを迎えた認知症の方々の訴えの奥にある奮闘を認め、苦しさに共感して分かち合おうとします。そして、大きな喪失感を抱えた認知症の方が、ご自身の人生の意味や存在の価値を確認できるよう手助けします。

バリデーションに期待できる効果

認知症の方への効果

・ストレスや不安が軽減される
・BPSD(行動・心理症状)の緩和につながる
・自尊心を取り戻し、再び生きる希望をもつことができる
・再び他者との交流をもつことができる

ご家族や専門職の方への効果

・認知症の方の言動を理解することで、共感・受容が可能になる
・フラストレーションが緩和される
・認知症の方と信頼関係を築くことができる
・自分の仕事に自信をもつことができる

「バリデーション」の基本的態度

「バリデーション」の基本的態度

傾聴する

「傾聴」とは、ただ「聞く」のではなく、その奥にある気持ちを酌み取りながら耳を傾け「聴く」ことです。「バリデーション」では、五感を使って認知症の方が本当に言いたいこと、伝えたいことを積極的に傾聴します。
たとえば、認知症の方が「部屋に誰かがいる!」と訴える場合は、まず「部屋に誰かがいるのですね」と相手の言葉をリフレージング(反復)します。そして、「その人はどのような人ですか?」「部屋のどのあたりにいますか?」などと質問し、ご本人が見ている世界について教えていただきます。

共感する(カリブレーション)

介護者は、認知症の方の感情が表れている身体部分(表情・呼吸のペース・姿勢など)を観察し、一致させていきます。

誘導しない(ペースを合わせる)

ダンスをするときに呼吸を合わせるように、介護者が認知症の方のペースに合わせます。忍耐が必要かもしれませんが、「バリデーション」では誘導や強制はしません。介護者は、認知症の方の姿勢や歩き方、表情、そして呼吸まで一致させて、ペースを合わせていきます。

受容する(強制しない)

認知症の方を現実に引き戻そうと誘導したり、否定したりせず、「あるがまま」を認めて、ご本人の世界に近づこうと努めます。

うそをつかない・ごまかさない

たとえば、認知症の方が「家に帰る!」と訴えたとき、嘘をついたり、ごまかしたりせず、本当の主訴をつかもうとします。「帰りたい」と訴えるご本人の感情にふたをせずに向き合い、信頼関係を築くようにします。


認知症の方:早く帰らなくちゃ!
介護者:帰らなくてはいけないのですね。(リフレージング)
認知症の方:そうなの。
介護者:帰ってどなたに会うのですか?(オープンクエスチョン)
認知症の方:主人よ。
介護者:ご主人ですか。ご主人に会われてどうされるのですか?(オープンクエスチョン)

<参考文献>
都村尚子『バリデーションへの誘い―認知症と共に生きるお年寄りから学ぶこと』全国コミュニティライフサポートセンター, 2014

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ライター:樋口 くらら
家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。

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