「共生」と「予防」を両輪とする「認知症施策推進大綱」の5つの柱

2019(令和元)年に政府がとりまとめた認知症施策推進大綱(にんちしょうしさくすいしんたいこう)。この大綱には、「認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望をもって日常生活を過ごせる社会を目指す」と明記されています。今回は、認知症施策推進大綱の概要と5つの柱について分かりやすく解説します。

認知症施策推進大綱とは

認知症施策推進大綱とは

「認知症施策推進大綱」は、2019(令和元)年6月に開催された認知症施策推進関係閣僚会議において策定されました。
この大綱の基本的な考え方は、認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し、認知症の人や家族の視点を重視しながら「共生」と「予防」(※)を車の両輪として施策を推進するというものです。
認知症予防に関するエビデンスの収集・普及とともに、予防を含めた認知症への「備え」としての取り組みを促すことで、70歳代での発症を10年間で1歳遅らせることを目指すとしています。


    ※ 「共生」と「予防」

    「共生」とは
    認知症の人が尊厳と希望を持って認知症とともに生きる、また認知症があってもなくても同じ社会でともに生きるという意味

    「予防」とは
    「認知症にならない」という意味ではなく、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」という意味

認知症施策のこれまでと現在

日本では1980 年代後半以降に認知症への施策が本格化しました。
2012(平成24)年にオレンジプラン(認知症施策推進 5か年計画)、2015(平成27)年に新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)が策定され、2019(令和元)年には認知症施策推進大綱がとりまとめられました。
認知症施策推進大綱の対象期間は、団塊の世代が 75 歳以上となる 2025(令和7)年までで、策定後3年を目途に施策の進捗(しんちょく)を確認することとなっています。

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認知症施策推進大綱の5つの柱

認知症施策推進大綱の5つの柱

具体的な施策としては、「普及啓発・本人発信支援」「予防」「医療・ケア・介護サービス・介護者への支援」「認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援」「研究開発・産業促進・国際展開」を5つの柱として掲げています。


① 普及啓発・本人発信支援

・認知症に関する理解促進(認知症サポーター養成の推進/子ども・学生への理解促進など)
・相談先の周知
・認知症の人本人からの発信支援(「認知症とともに生きる希望宣言」の展開など)


② 予防

・認知症予防に資する可能性のある活動の推進
・予防に関するエビデンス収集の推進
・民間の商品やサービスの評価・認証の仕組みの検討


③ 医療・ケア・介護サービス・介護者への支援

・早期発見・早期対応、医療体制の整備
・医療従事者・介護従事者等の認知症対応力向上の促進
・介護サービス基盤整備、介護人材確保
・医療・介護の手法の普及・開発
・介護者の負担軽減の推進


④ 認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援

・バリアフリーのまちづくり推進
・移動手段の確保の推進
・地域支援体制の強化
・認知症に関する取り組みを実施している企業等の認証制度や表彰
・商品・サービス開発の推進
・成年後見制度の利用促進
・認知症に関するさまざまな民間保険の推進
・若年性認知症支援コーディネーター配置の推進
・社会参加活動や社会貢献の促進          など


⑤ 研究開発・産業促進・国際展開

・認知症の予防・診断・治療・ケア等の研究


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主な施策の内容

主な施策の内容

「認知症サポーター」の養成と活動支援

認知症サポーターとは、認知症に関する正しい知識を持ち、地域・職域で認知症のご本人やそのご家族をできる範囲で手助けする人のことです。
地域の方々、小売業・金融機関・公共交通機関の従業員などをはじめ、子どもや学生に対する養成講座を拡大するとしています。


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「認知症地域支援推進員」の配置

認知症地域支援推進員とは、関係機関との連携体制づくり、「認知症ケアパス」の作成・普及、「認知症カフェ」等の開設、認知症の方やご家族への相談支援などを行う人のことです。地域包括支援センターや認知症疾患医療センターなどに配置されています。


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認知症初期集中支援チーム

認知症が疑われる方や認知症の方、そのご家族を訪問し、症状を把握しながら家族支援などを行い、自立生活をサポートするチーム(看護師・保健師・作業療法士など)のことです。ほぼすべての市町村に設置されています。
今後は、社会から孤立している状態にある方への対応も含め、適切な医療・介護サービスなどに速やかにつなぐ取り組み強化のために、先進的な活動事例を収集して全国に横展開し、それらをもとにチームの質の評価や向上のための方策について検討するとしています。


「認知症疾患医療センター」の設置

認知症疾患医療センターは、認知症の鑑別診断、行動・心理症状(BPSD)と身体合併症への対応、専門医療相談、関係機関との連携などを担っています。

新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)では「認知症の人やその家族の視点の重視」が7つの柱のひとつであり、プラン全体の理念でもありました。認知症施策推進大綱に沿った施策も、すべて認知症の方の視点に立ち、認知症の方やそのご家族の意見をふまえて立案・推進することを基本としています。

ライター:樋口 くらら
家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。

「共生」と「予防」を両輪とする「認知症施策推進大綱」の5つの柱

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