私たちは誰もが、「着る服を選ぶ」「好きなものを食べる」「行きたい場所に出かける」「住む場所を変える」「介護・医療サービスを選ぶ」など、自ら意思決定をしながら生活しています。
意思決定支援とは、すべての人に意思があるという前提に立ち、ご本人主体の意思決定を支援することです。今回は、認知症の方の意思決定支援について解説します。
認知症の方の意思決定支援とは

厚生労働省は、認知症の方の意思決定を支援するプロセスや留意点をまとめた「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」を公表しています。
このガイドラインは、認知症の方(認知症と診断された方と、認知機能の低下が疑われ意思決定能力が不十分な方)の意思を尊重し、支援するためのものです。
思決定支援については、「認知症の人であっても、その能力を最大限活かして、日常生活や社会生活に関して自らの意思に基づいた生活を送ることができるようにするために行う、意思決定支援者による本人支援」と示されています。
「意思決定支援者」とは、意思決定支援に関わるすべての人のことです。
ケアを提供する専門職や行政職員だけでなく、ご家族、成年後見人、地域で見守り活動を行う方、ご本人をよく知っている方なども含まれます。
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認知症の方の意思決定支援の原則

本人の意思の尊重
意思決定支援は、ご本人の表明した意思を確認し、それを尊重することから始まります。
認知症になると、物事を理解するのに時間かかることや、自分の思いを言葉でうまく表現できないことがあります。
意思決定支援者は、ご本人の認知能力に応じて、自己決定するために必要な情報を、理解できるよう説明する必要があります。
また、言葉だけでなく、ご本人の身振り、手振り、表情の変化なども意思表示として読み取る努力をすることが求められます。
明確な意思の確認が難しい場合であっても、支援する側の視点ではなく、認知症の方の視点に立ち、ご本人の意思を推定して尊重します。
本人の意思決定能力への配慮
すべての人に意思があり、自分のことを決める力があるということを前提にして支援を行います。
ご本人の意思決定能力とは、「理解する力(説明の内容をどの程度理解しているか)、認識する力(それを自分のこととして認識しているか)、論理的に考える力(論理的な判断ができるか)、選択を表明できる力(その意思を表明できるか)によって構成される」とされています。
チームによる早期からの継続的支援
ご本人が意思決定できる早期の段階で、先を見通した支援を繰り返し行うことが重要です。
ご本人の意思を踏まえ、ご家族や親族、福祉・医療・地域近隣の関係者、成年後見人などがチームとなって日常的に見守り、ご本人の意思や状況を継続的に把握して必要な支援を行う体制を整えます。
ご本人のその後の生活に影響を与えるような意思決定支援を行った場合は、その都度、記録を残しておく必要があります。
認知症の方の意思決定支援とは

出典:厚生労働省「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン 添付資料」
意思決定支援を行う際は、ご本人の意思決定能力を適切に評価しながら、適切なプロセスを踏むことが大切です。
意思決定支援のプロセスは、「意思の形成」と「意思の表明」が中心で、「意思を実現するための支援」も含まれます。
意思形成の支援(ご本人が意思を形成することの支援)
適切な情報、認識、環境の下で意思が形成されることを支援します。
- ・ご本人が意思を形成するのに必要な情報を、その都度ゆっくり丁寧に説明する
- ・ご本人が何を望むかを、開かれた質問(オープンクエスチョン)で聞く
- ・分かりやすい言葉や文字、図、写真、動画などを使い、ご本人が理解できるようにする
- ・選択肢を示す場合は、できるかぎり複数の選択肢を用意する
- ・ご本人が理解している事実認識に誤りがないか確認する
意思表明の支援(ご本人が意思を表明することの支援)
形成された意思を適切に表明・表出することを支援します。
- ・ご本人の意思を表明しにくくする要因はないか確認する
- ・ご本人と時間をかけてコミュニケーションを取る
- ・複雑な意思決定を行う場合は、重要なポイントを整理して選択肢を提示するなどの工夫をする
- ・重要な意思決定の際は、時間をおいて確認する、複数の支援者で確認するなどの工夫をする
意思実現の支援(ご本人が意思を実現するための支援)
自発的に形成、表明されたご本人の意思を、利用可能な社会資源などを用いて、日常生活や社会生活に反映することを支援します。
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