パーキンソン病はご高齢の方に多くみられる病気のひとつで、介護保険制度における16種の「特定疾病」に指定されています。今回は、パーキンソン病の症状や基礎知識と日常生活の工夫、療養生活を支える公的支援制度などについてお伝えします。
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厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」
「パーキンソン病」とは

パーキンソン病は、脳内の神経伝達物質のひとつ「ドパミン」が減少することによって、身体の動きが不自由になっていく病気です。
1817年にイギリスのジェームス・パーキンソン医師が最初に報告したことから「パーキンソン病」と呼ばれるようになりました。
50歳以上で発症することが多い病気ですが、40歳以下で発症(若年性パーキンソン病)することもあります。
日本の患者数は約15万人で、1000人に1~1.5人と推定されています。60歳以上では100人に1人となり、高齢化に伴い患者数は増加しています。
パーキンソン病の発症には、ドパミン神経細胞の中に「αシヌクレイン」というたんぱく質が凝集することが関連していると考えられていますが、原因ははっきりと分かっていません。
ゆっくりと進行するのが特徴で、完治は難しいとされています。しかし、現在は医療が進歩しており、パーキンソン病の方の平均寿命は全体の平均とほぼ変わらないと考えられています。
パーキンソン病の主な症状
パーキンソン病には「身体の動きが遅くなる」「手足が震える」「筋肉がこわばる」「バランスがとれない」という4つの特徴的な運動症状が現れます。また、自律神経症状や精神症状などの非運動症状が現れることもあります。
運動症状
無動・寡動(身体の動きが遅い・少ない) |
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身体の動きが遅くなったり、少なくなったりします。パーキンソン病の主要症状です。 初期には、箸がうまく使えなくなる、字が小さくなる(小字症)などの症状が現れやすく、やがて歩くのが遅くなったり、寝返りが打てなくなったりします。 また、まばたきの回数が減る、表情のない顔つきになる(仮面様顔貌)、声が小さくなるなどの症状もあります。 |
振戦(手足が震える) |
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何もしていないときに、主に手や足が小刻みに震えます。顎(あご)や舌、まぶたなどが震えることもあります。特に指先の震えは、手の指で丸薬を丸めるような特有の震え方で「ピル・ローリング」と呼ばれます。 最初に気づくことが多い症状ですが、病気が進行すると目立たなくなります。 |
筋固縮・筋強剛(手足の筋肉がこわばる) |
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筋肉がこわばり、手足の動きがぎこちなくなります。初期から比較的よく現れる症状です。 自覚症状はあまりありませんが、医師が患者さんの手首などを持って動かそうとすると、カクカクとした抵抗が感じられます(歯車様固縮・歯車現象)。 |
姿勢反射障害(バランスがとれない) |
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身体が傾きかけたときに、とっさにバランスがとれなくなります。立っているときに押されたりすると、よろけて倒れやすくなります。 初期にみられることはほとんどなく、病気が進行すると現れてくることが多い症状です。 |
ほかにも突進現象(歩行時にどんどん早足になり止まれなくなる現象)や、すくみ足(足底が地面にへばりついたようになり歩けなくなる状態)などがあります。
非運動症状
自律神経症状 |
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便秘・めまい・起立性低血圧・排尿障害・発汗障害・嚥下(えんげ)障害など |
自律神経症状以外の非運動症状 |
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気分障害・幻覚・妄想・睡眠障害・認知機能障害・感覚障害など |
パーキンソン病の重症度
パーキンソン病の進行の速さは人それぞれで、重症度によって利用できる医療・福祉の支援制度が異なります。
パーキンソン病の進行度(重症度)を示す指標として広く用いられているのが「ホーン・ヤールの重症度分類」と「生活機能障害度分類」です。
「ホーン・ヤールの重症度分類」では5段階(1度~5度)、「生活機能障害度分類」では3段階(1度~3度)に分けられています。
パーキンソン病の治療
パーキンソン病は、長期にわたって薬で症状をコントロールすることが必要な病気です。
薬物療法やリハビリテーションなどにより、病気と共存しながら日常生活を送ることが可能になっています。
日常生活における工夫

食事
運動症状に対する工夫
手が不自由であっても、できるだけご自身で食べていただく方がおいしさが増し、リハビリにもなります。軽くて割れにくい食器、ピンセット型の箸、すべり止めマットなどの自助具を活用するとよいでしょう。
非運動症状に対する工夫
パーキンソン病が進んでくると、嚥下(えんげ)障害のために、むせやすくなったり、うまく飲み込めなくなったりすることがあります。調理の際は、食材をやわらかく煮る、とろみをつけるなどの工夫をしましょう。
また、パーキンソン病の方には便秘の症状がよくみられます。食物繊維を多く含む食材などを積極的に取り入れ、便秘対策をすることも大切です。
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衣服の着脱
運動症状に対する工夫
転倒を防ぐために、着替えは椅子に座ってゆっくりと行いましょう。
衣類は、ゆったりめで伸縮性があるもの、ウエスト部分がゴムのもの、軽くて肌触りがよいものを選ぶと着替えが楽です。
ボタンのかけ外しが難しくなってくるため、マジックテープ式やファスナーを使用したものを選ぶとよいでしょう。また、ボタンエイドなどの便利な自助具もあります。
非運動症状に対する工夫
パーキンソン病は、起立性低血圧やめまいの症状が現れることがあります。立ち上がったときは、めまいなどがないか確認してからゆっくりと動きましょう。
住まい
運動症状に対する工夫
玄関や廊下、階段、トイレ、浴室などには手すりをつけ、段差をなくして転倒を防ぎましょう。
手すりの設置や段差の解消などの住宅改修費の一部は介護保険で助成されます。
廊下には、等間隔(30センチほど)に視覚的キュー(視覚的な手がかり)となる色テープを貼ると歩きやすくなります。
また、暗い場所では「すくみ足(足底が地面にへばりついたようになり歩けなくなる状態)」が起こりやすくなります。照明は常に明るくし、足元灯なども活用して、暗い場所をつくらないようにしましょう。
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その他
突進現象(歩行時にどんどん早足になり止まれなくなる現象)等を防ぐために、杖や歩行器、シルバーカーなどを活用しましょう。
適度に身体を動かし、今までの生活スタイルをできるかぎり変えないようにすることも大切です。介助をする方もひとりで抱え込まず、社会資源を有効に活用しましょう。
家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。
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