在宅介護をされている方の中には、1人で2人以上の介護をし、精神的・肉体的疲労で限界を感じている方もいらっしゃいます。今回は、このような複数の方を同時に介護する「多重介護」について、その実態と解決のヒントをお伝えします。
多重介護とは

ご高齢者や障がいがある方など複数人を同時に介護することを「多重介護」といいます。
例えば、要介護状態の父親と母親を1人で介護している場合、障がいがある子どもと自分の父親または母親を1人で介護している場合などです。
このような場合、介護サービスを利用していない時間は、付きっきりの状況になります。多重介護は介護をする方の生活に大きな影響を与える深刻な問題なのです。
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多重介護の実態について

人口の推移
「多重介護」の背景には少子高齢化の進行があります。
昔は1人の女性が、子どもをたくさん出産していました。合計特殊出生率(1人の女性が生涯に生むと見込まれる子どもの数を示す指標)をみると、第1次ベビーブーム期は4.3を超えています。
しかし、2023(令和5)年の合計特殊出生率は 1.20 まで低下しているのです。今後は少子高齢化がさらに急速に進展すると予測されているため、多重介護も増えることが予想されます。
多重介護している方の続柄
厚生労働省の調査(2022年 国民生活基礎調査)では、主な介護者は要介護者等と同居している方が45.9%と最も多くなっています。
内訳をみると、配偶者が22.9%、高齢の親御さんをもつ子が16.2%、子の配偶者が5.4%となっています。
要介護者等と同居している主な介護者の年齢についてみると、男性では75%、女性では76.5%が60歳以上でした。つまり、ご高齢者がご高齢者を介護する「老老介護」のケースも多く、高齢化の進行に伴って今後も増加していくと見込まれています。
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多重介護の問題点

例えば、80歳のご夫婦2人を子ども1人が介護することを想定してみましょう。子どもが50歳だとすれば、まだまだ働かなければなりません。しかし、働きながら親御さん2人の介護はできず、仕事を辞めなければならない状況になることもあります。ここで「介護離職」の問題や経済的負担もでてきます。
また、多重介護をしている方の心理的・身体的負担もかなり大きなものとなります。切迫した状態になれば、「高齢者虐待」や「共倒れ」の問題が起こる可能性もあるかもしれません。このように「多重介護」は、さまざまな問題を引き起こすきっかけとなってしまう場合があります。
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多重介護の解決のヒント
多重介護はいつ始まるか、予測できません。多重介護の状況になり、不安なこと、困っていることなどがある場合は、ひとりで悩まず専門家に相談し、適切な機関につないでもらいましょう。
地域包括支援センターは、直接的介護だけでなく、医療や福祉に関するさまざまな相談や悩みにも対応しています。
また、ストレスや不満を発散させるために、孤立せず周囲の方に相談してみるのもひとつの方法です。
少子高齢化の傾向が続く限り、今後も多重介護はますます増えることが予想されます。多重介護から起こる問題を少しでも解決するため、地域包括支援センターに相談をする、介護保険サービスや地域の社会資源を上手く活用するなどして、多重介護をしている方の負担をできるだけ減らすようにしましょう。
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介護福祉士養成の専門学校を卒業後、特別養護老人ホームに介護スタッフとして7年間勤務する。施設ケアマネジャーや生活相談員などを経験して今に至る。資格は介護福祉士、介護支援専門員、社会福祉士、社会福祉主事任用資格などを取得している。
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