認知症や知的障がい、精神障がいによって物事の判断が十分にできなくなると、契約や財産管理が難しくなり、悪徳商法などの被害にあうなど、その権利が侵害されやすくなります。このような権利侵害から、判断能力が十分でない方を守り、尊厳を保ちながら生活できるようにすることが権利擁護(けんりようご)です。今回は、ご高齢者や障がいのある方の権利を擁護する制度について解説します。
①日常生活自立支援事業(福祉サービス利用援助事業)
日常生活自立支援事業(福祉サービス利用援助事業)は、判断能力が不十分な方に対して、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理援助、重要な書類等の預かりを行う事業です。
社会福祉協議会と利用者ご本人との契約に基づいて支援が行われるものであり、判断能力が不十分であっても、事業の契約内容を理解して利用契約を締結する能力があると判断された方が対象となります。
認知症や知的障がい、精神障がいなどによって判断能力が低下した方が、住み慣れた地域で自立した生活を送ることができるようサポートします。
判断能力が不十分な方に対して福祉サービスの利用支援や財産管理などを行う制度としては「成年後見制度」がありますが、日常生活自立支援事業(福祉サービス利用援助事業)は成年後見制度を補完するものとして位置づけられています。
福祉サービス利用援助事業の契約締結能力がないと判断された場合は、成年後見制度などの適切な制度を利用することになります。
事業の実施主体
都道府県社会福祉協議会または指定都市社会福祉協議会が主体となって実施しています。
(事業の一部は、委託を受けた市区町村の社会福祉協議会等が行っています。)
援助を行う人
援助を行うのは、社会福祉協議会等に配置されている社会福祉士などの専門員(原則常勤)と生活支援員(非常勤)です。
専門員
相談の受付や支援計画の作成、契約の締結などの業務を行います。
生活支援員
支援計画に基づいて具体的な援助を提供します。
事業の対象者
次のいずれにも該当される方が、福祉サービス利用援助事業(日常生活自立支援事業)の対象となります。
・認知症の症状や知的障がい、精神障がいなどによって、日常生活を営むのに必要なサービスを利用するための情報の入手、理解、判断、意思表示を本人のみでは適切に行うことが困難な方
・サービスを利用する意思があり、事業の契約の内容を判断して契約する能力がある方
事業のサービス内容
福祉サービスの利用援助
・福祉サービスに関する情報提供や助言
・福祉サービスを利用するための手続き
・福祉サービス利用料の支払い手続き
・苦情解決制度を利用する手続き など
日常的な金銭管理サービス
・年金などの受け取りに必要な手続き
・税金や公共料金などの支払い
・日常生活に必要な預貯金の出し入れ など
大切な書類等の預かりサービス
・大切な預貯金通帳や年金証書、権利証、実印などの預かり
福祉サービス利用援助事業の利用料
相談や支援計画の作成は無料ですが、契約を締結した後のサービス利用料は利用者が負担することとなっています。契約に基づくサービスの利用料は、実施主体によって異なります。
(生活保護を受けている方のサービス利用料は無料です。)
福祉サービス利用援助事業(日常生活自立支援事業)について詳しくは、お住まいの市区町村の社会福祉協議会にお問い合わせください。
②成年後見制度
成年後見制度は、認知症や知的障がい、精神障がいなどのために物事を判断する能力が不十分な方の日常生活を、法律と生活の両面から支援する制度です。
成年後見制度には「任意後見制度」と「法定後見制度」があります。
「任意後見制度」は、十分な判断能力があるうちに将来に備えて、あらかじめ任意後見人と代わりにしてもらいたいことを決めておくものです。
「法定後見制度」は、すでに判断能力が低下している場合に、申立てに基づいて家庭裁判所が成年後見人等を選任するものです。ご本人の判断能力に応じて「補助」「保佐」「後見」の3つの段階に区分されています。
家庭裁判所に申立てができるのは、ご本人や配偶者、四親等内の親族、市区町村長、検察官などです。申立てに必要な費用や鑑定費用は、原則として申立人の負担となります。
「成年後見制度」について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
今後さらに必要性が高まる「成年後見制度」を利用するときのポイント
「権利擁護センター」について
権利擁護センターとは、社会福祉協議会が開設している相談支援機関です。
認知症の高齢者や障がいのある方が地域で安心して生活できるよう「成年後見制度」や「日常生活自立支援事業」などの権利擁護に関する制度を活用して支援しています。
生活相談、法律相談は無料です。
社会福祉士や弁護士、司法書士などが、日常生活に不安のあるご本人やそのご家族などからのさまざまな相談に応じています。
主な相談内容
・日常的な金銭管理に不安がある
・福祉サービスを受けたい
・成年後見制度を利用したい
・悪質商法の被害にあってしまった など
「法テラス(日本司法支援センター)」について
法テラス(日本司法支援センター)は、総合法律支援法に基づいて設立された法務省所管の公的な法人です。
刑事・民事を問わず、国民が法的なトラブルの解決に必要な情報やサービスが受けられるよう、総合法律支援に関する事業を行っています。
法テラスでは、2018年から、高齢や障がい等で認知機能が十分でない方を対象とした「特定援助対象者法律相談援助」が開始されました。
「特定援助対象者法律相談援助」とは
「特定援助対象者法律相談援助」は、総合法律支援法の改正により、2018年1月から始まった法テラスの支援者申込型出張相談制度です。
認知機能が十分でないために、法的問題を抱えていても、自ら法的支援を求めることが難しい方(特定援助対象者)が対象となります。
資力にかかわらず利用できますが、一定の基準を超える資力をお持ちの方は相談料を負担する必要があります。
申し込みができる方は、特定援助機関(地域包括支援センター・社会福祉協議会など)の支援者に限られます。
支援者の方が法テラスに連絡すると、弁護士や司法書士が相談者の自宅や福祉施設、病院などに出張して法律相談を行います。
▼関連リンク
全国社会福祉協議会「ここが知りたい日常生活自立支援事業なるほど質問箱」
家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。
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