加齢により体温を調節する機能が低下しているご高齢者は、暑さや寒さに適応することが難しくなっています。特に気温の変化が大きい季節の変わり目は体調を崩しやすいため、十分な注意が必要です。今回は、本格的な冬に向かう時期にご高齢者に気をつけていただきたい病気や対処法についてお伝えします。
季節の変わり目に多い心身の不調
季節の変わり目に体調を崩してしまう原因のひとつが、自律神経の乱れです。
自律神経には、相反する働きをする「交感神経」と「副交感神経」があります。
交感神経
主に昼間に働き、心身の活動力を高める神経です。血圧を上げる・心拍数を増やすなどの作用があります。
副交感神経
主に夜間に働き、心身を休息・回復させる神経です。血圧を下げる・心拍数を減らすなどの作用があります。
通常は、この2種類の自律神経が身体の機能を調整してバランスを保っています。しかし、自律神経の働きは加齢とともに不安定になりがちです。そして、寒暖差が激しい季節の変わり目は、さらに自律神経が乱れやすくなります。
自律神経の調整がうまくいかないことで起こる心身の不調は、食欲不振、頭痛、動悸、肩こり、めまい、微熱、倦怠感、不眠、下痢、便秘など多彩です。「レビー小体型認知症」の方には、立ちくらみ(起立性低血圧)、頻尿、尿失禁、便秘、多汗(たかん)などの自律神経症状がよくみられます。
また、無意識のうちに体温を微調整することも、自律神経の働きのひとつです。自律神経が乱れると体温調節がうまくできなくなり、熱中症や低体温症のリスクが高まります。
「いつもと違う」と感じた時の対応
ご高齢者の病気は、症状がはっきりと出ないことがあります。また、自覚症状も乏しいために病気を見逃してしまうことが少なくありません。「なんとなく元気がない」「いつもと様子が違う」と感じるときは、重大な病気が隠れている可能性もあります。ご本人が言葉で訴えなくても、周囲の方が早めに不調に気づいて対応することが大切です。
食欲がない
食欲不振の原因は、加齢によるものから心身の病気までさまざまです。
病気が原因の場合は、消化器疾患だけでなく、感染症、心臓や腎臓、甲状腺などの病気が考えられます。また、脱水症が食欲不振を引き起こすこともあります。
食欲不振が長引いている場合は、うつ病や認知症、服用している薬の副作用などの可能性があります。
なお、いつも通りに食べているのに急に体重が減る場合は、糖尿病や甲状腺機能亢進症などを疑ってみることも必要です。
医療機関を受診しても病気が見つからない場合は、環境の変化やストレス、不規則な生活習慣などによって自律神経のバランスが崩れているのかもしれません。お食事の内容や回数を工夫したり、楽しく食べられる雰囲気を作ったりしてみましょう。また、口腔トラブル(口内炎・歯周病など)がないかを確認し、口腔ケアしてみることも重要です。
お食事や口腔ケアについて詳しくは下記の記事をご覧ください。
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発熱
高齢になると体温を調節する機能が低下するため、病気になっても発熱しないことが多々あります。微熱でも軽症とは限らず、熱が出たときは重症になっていることもあります。
ご高齢者の発熱の原因として多いものは、感染症(風邪・誤嚥性肺炎・尿路感染症など)です。ほかにも、脱水症・膠原病・褥瘡(じょくそう)などによる発熱の可能性があります。
急に高熱が出たときは、原因を判明させてから治療をすることが重要です。安易に解熱剤を使用するのではなく、まずは医療機関に相談をしましょう。発熱とともに意識障害やけいれん、呼吸困難などがある場合は、ただちに救急車を呼んでください。
また高齢の方は、厚着、布団のかけすぎ、暖房の効きすぎ等によって、身体に熱がこもり、微熱が出ることがあります。室温などの環境を改善しても平熱より1 ℃ 以上高い場合は、ほかの症状がないか確認しましょう。
ご高齢者は一般的に体温が低い傾向にありますが、平熱には個人差があります。そのため、普段から定期的に体温を測って平熱を把握しておくことが大切です。体温は起床直後に低く、食後や入浴後に高く出ることがありますから、食前や食間に1日3回ほど測るとよいでしょう。
全身がだるい

倦怠感(だるさ)も、季節の変わり目に自律神経のアンバランスによって起こりやすい症状です。また、ご高齢者は筋肉量の減少や低栄養などによって倦怠感を感じることがあります。
しかし、急にだるくなった場合や十分な休養をとっても回復しない場合は、心身の病気が隠れているかもしれません。「だるい」と訴えるご高齢者に多いのは、貧血、感染症、うつ病、心臓の病気などです。また、服用している薬が原因になっている可能性もあります。
病気ではないけれど「疲れやすくて身体がだるい」という場合は、日常生活をチェックしてみましょう。「睡眠不足ではないか」「バランスのとれた食事をとっているか」「体力が落ちて入浴やレクが負担になっていないか」などを確認します。
「朝日を浴びる」「30分ほど昼寝をする」「夜の照明を控えめにする」などの工夫で生活リズムを整えると、気持ちよく過ごせるかもしれません。また、ご家族もできるだけ休息や気分転換を取り入れて、ストレスを溜めないようにすることが大切です。
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季節の変わり目の体調管理
夏の疲れが身体に残っている秋口は、さまざまな不調を招きやすいため、日々の体調管理が大切です。
冷え
9月に入ると昼夜の寒暖差が大きくなり、身体の「冷え」が起こりやすくなります。
冷えやすい首や手足、お腹は、スカーフ、靴下、腹巻きなどで保温しましょう。パジャマや寝具は、いつまでも夏物を使わず、涼しくなったら秋物へ替えるようにします。
また、軽い運動や入浴などで血行をよくし、食事では身体を温める食材をバランスよく取り入れましょう。
身体を温める食材のレシピ
呼吸器疾患
気候が安定しない秋は風邪をひきやすくなります。また、ブタクサ等の花粉も飛散します。喘息(ぜんそく)の方は、台風や秋雨前線による気圧の変化、急激な気温の変化などにより発作が起こりやすくなります。
うがいや手洗い、マスクの着用、こまめな体温調節、アレルギー対策などをしっかり行いましょう。
食中毒
秋は食中毒にも注意が必要な季節です。抵抗力が弱っているご高齢者は重症化してしまうこともあります。
11月頃からはノロウイルスによる食中毒が増え始めるため、予防対策が必要です。
こまめな手洗い、食材の十分な加熱、調理器具の消毒などを心がけ、キノコなどの自然毒にも注意しましょう。
高齢の方は味覚や嗅覚が低下していることも多いです。食品は表示されている保存方法を守り、賞味期限が過ぎたものはよく確認し、消費期限を過ぎたものは食べないようにしましょう。
お弁当や宅配食を利用している方は、できるだけ早めに食べるようにしましょう。
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感染症
気温が低下して空気が乾燥する秋~冬は、ウイルスや細菌による感染症が流行します。
うがい、手洗い、マスクの着用に加えて、日常的に手を触れるもの(ドアノブ・手すり・ベッドの柵・スイッチ・リモコン・ポータブルトイレ・いすの背もたれ・冷蔵庫・テーブルなど)の消毒を心がけましょう。
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季節の変わり目の体調管理はなかなか難しいものですが、生活習慣を少し変えるだけで不快な症状が和らぐこともあります。体調を崩してしまう前に、お食事や睡眠、活動量などを一度見直してみましょう。秋は過ごしやすく食べ物がおいしい季節でもありますから、体調に気を配りながら、ぜひ楽しい時間を過ごしてください。
家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。
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