「ノーマライゼーション」とは、障がいの有無や加齢に関係なく、誰もが住み慣れた地域で共に生活できる社会を実現しようという考え方です。今回は、ご高齢者の尊厳を支えるケアを行う上でも重要なノーマライゼーションの理念について解説します。
ノーマライゼーションとは

ノーマライゼーションの歴史
ノーマライゼーション(normalization)は、1950年代にデンマークの「知的障がい者の親の会」による施設改善運動から生まれました。
デンマークの社会省で知的障がい者施設を担当していたバンク・ミケルセン氏は、当時の大規模な入所施設のあり方に疑問をもち、親の会とともに法改正に尽力します。そして、「ノーマライゼーション」という言葉が用いられた法律「1959年法」が誕生しました。
1960年代になると、ノーマライゼーションの理念は北欧諸国に広がり、スウェーデンのベンクト・ニィリエ氏によってさらに世界中に知られるようになります。
そのため、提唱者のミケルセン氏は「ノーマライゼーションの生みの親」、世界に広めたニィリエ氏は「ノーマライゼーションの育ての親」と呼ばれています。
日本におけるノーマライゼーションの広まり
日本では、国連が定めた国際障害者年(1981年)をきっかけにノーマライゼーションが認知され始めます。
その後、福祉の基本理念として定着し、1993年成立の「障害者基本法」や1995年策定の「障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略~」などに導入されました。
近年は、障がいのある人だけではなく、すべての人が住み慣れた地域で自分らしく暮らせる社会を目指した取り組みが進められています。「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」なども、ノーマライゼーションを実現するための取り組みのひとつです。
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ノーマライゼーションの考え方

デンマークの「1959年法」の前文に「知的障がい者ができるだけノーマルな生活を送れるようにする」という言葉があります。
ノーマル(normal)は「普通の」という意味で、ニィリエ氏は「障がいのある人もない人と同じようにノーマル(普通)に暮らす権利がある」とし、ノーマライゼーションの理念を原理として定義づけました。
ノーマライゼーションの8つの原理(ニィリエ) |
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① 1日のノーマルなリズム ② 1週間のノーマルなリズム ③ 1年間のノーマルなリズム ④ ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験 ⑤ ノーマルな個人の尊重と自己決定権 ⑥ ノーマルな性的関係 ⑦ ノーマルな経済水準とそれを得る権利 ⑧ ノーマルな環境形態と水準 |
ノーマライゼーションと高齢者福祉

ノーマライゼーションは、障がいのある方が住宅街から離れた大型施設に隔離されていた時代の改善運動から始まりましたが、現在では福祉の基本的な考え方のひとつとして浸透しています。
日本の高齢者福祉の分野でも、施設介護から在宅介護を重視する流れが生まれ、地域で支え合う取り組みが進められています。
介護保険法の目的と基本理念
介護保険法は、介護が必要になっても、ご本人の持つ能力に応じて、尊厳を保持したその人らしい自立した生活を、可能なかぎり居宅(自宅)で営むことができることを目指しています。
介護保険法第1条 (目的)
- この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。
介護保険法第2条(介護保険)
- 介護保険は、被保険者の要介護状態又は要支援状態(以下「要介護状態等」という。)に関し、必要な保険給付を行うものとする。
2 前項の保険給付は、要介護状態等の軽減又は悪化の防止に資するよう行われるとともに、医療との連携に十分配慮して行われなければならない。
3 第一項の保険給付は、被保険者の心身の状況、その置かれている環境等に応じて、 被保険者の選択に基づき、適切な保健医療サービス及び福祉サービスが、多様な事業者又は施設から、総合的かつ効率的に提供されるよう配慮して行われなければならない。
4 第一項の保険給付の内容及び水準は、被保険者が要介護状態となった場合においても、可能な限り、その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮されなければならない。
ご高齢者の介護では、ご本人の自己決定を尊重し、自立支援を目指したサービスを提供します。
自立支援とは、ご本人の持つ能力に応じて自立した生活を送ることができるよう支援するものですが、最も重要なのはご高齢者の尊厳の保持です。支援者には、ご本人の選択や決定を尊重する姿勢が求められます。
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家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。
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