もし「振り込め詐欺」などの被害に遭ったと気づいたら、まず何をすればよいのでしょうか。動揺してしまうかもしれませんが、すぐに警察や振込先の金融機関に連絡をすれば被害金を回復できる場合があります。
今回は、振り込め詐欺等の被害を回復するために知っておいていただきたい制度「振り込め詐欺救済法」について解説します。また、「被害回復給付金支給制度」や「消費者団体訴訟制度」の基礎知識、被害防止のポイントもお伝えします。
目次
1「振り込め詐欺」とは?
ご高齢者が被害に遭いやすい「振り込め詐欺」にはどのようなものがあるでしょうか。
「オレオレ詐欺」や「還付金詐欺」はよく耳にするかもしれませんが、ほかにも「架空料金請求詐欺」と「融資保証金詐欺」があります。
オレオレ詐欺
電話を利用して親族や警察官、弁護士などを装い、さまざまな名目でお金をだまし取る詐欺です。
息子さんやお孫さんになりすました犯人が事前に電話をかけてきて、「携帯電話をなくした」「携帯電話が壊れた」などと言い、電話番号が変わったと思い込ませます。
さらに、声が違うことを怪しまれないように「風邪をひいた」「喉の調子がおかしい」などと言ってきます。
その後、「会社のお金が入ったバッグを落とした」「会社のお金を株に使い込んでしまった」など、トラブルが発生したことを口実にお金を要求してきます。
還付金詐欺
公的機関の職員を装い、「還付金がある」と言ってATMを操作させ、犯人の口座にお金を振り込ませるという詐欺です。
自治体や税務署、年金事務所等の職員を名乗る犯人が電話をかけてきて、「払い過ぎたお金が返ってきます」などと言います。そして「ATMで手続きができる」とうそを言い、携帯電話を持ってATMへ行くよう誘導します。犯人の指示通りにATMを操作すると、実際には自分の口座ではなく犯人側の口座にお金が振り込まれてしまいます。
架空料金請求詐欺
未納料金などの名目で、実際には使用していない料金を支払わせようとする詐欺です。
インターネットサイト事業者などを名乗る犯人が、「未納料金が発生している」などの名目で、携帯電話にSMS(ショートメッセージサービス)が送ってきたり、法務省や裁判所などの名称でハガキを送付してきたりします。 被害者がSMSやハガキに記載された電話番号に電話をかけると、「払わなければ裁判になる」などと言って不安感をあおり、実際には存在しない料金の支払いを求めてきます。
融資保証金詐欺
実際には融資しないにもかかわらず、融資の保証金等の名目で現金をだまし取る詐欺です。
犯人は実在の金融機関や貸金業者を装い、「無担保、低金利、保証人不要で融資可能」などと書かれたSMSやハガキを送ってきます。
簡単に融資が受けられると信じて電話をかけてしまうと、さまざまな名目でお金を要求してきます。
▼関連記事:
ご家族や地域で見守る!ご高齢者をねらう詐欺の手口と対策
2「振り込め詐欺」などの被害に遭ってしまった場合は
万が一「振り込め詐欺」などの被害に遭ってしまったら、まずどうすればよいのでしょうか。
すでにお金を振り込んでしまった場合は、一刻も早く警察と振込先の金融機関に連絡してください。
警察には被害届を出し、振込先の金融機関には振り込んだ口座の利用停止(凍結)を依頼しましょう。
「振り込め詐欺救済法」という法律により、その口座に一定の残高が残っている場合は、振り込んでしまったお金が返ってくる可能性があります。
いざとなると気が動転してしまうかと思いますが、被害に気づいたら直ちに警察と振込先の金融機関に連絡することが重要です。被害に遭った可能性が考えられる方も、すぐに金融機関などに相談しましょう。
3「振り込め詐欺救済法」とは?
ここからは、被害を回復するために知っておいていただきたい「振り込め詐欺救済法」についてさらに詳しくお伝えします。
「振り込め詐欺救済法」は、振り込め詐欺等の被害に遭われた方の迅速な救済を図るための法律です。
振り込め詐欺等の犯罪により金融機関の口座に振り込まれ滞留している犯罪被害金を、被害者に支払う手続き等について定めています。
正式名称は「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」といい、2008(平成20)年6月に施行されました。
振り込め詐欺などの被害に遭ってしまった場合は、この法律に基づき、その口座の残高や被害額に応じて、被害額の全部または一部(被害回復分配金)を取り戻せる可能性があります。
被害回復分配金の支払いを受けるためには、振込先の金融機関への申請が必要です。
まずは振込先の金融機関へ連絡し、「申請書」「本人確認書類」「振り込みの事実を確認できる資料」を提出する必要があります。
救済の対象になる被害
「振り込め詐欺救済法」の対象となるのは、預金口座などへの振り込みを利用した財産被害です。
いわゆる振り込め詐欺のほか、ヤミ金融、未公開株詐欺などの振り込みにより被害が発生した場合も振り込め詐欺救済法の対象となります。
「振り込め詐欺救済法」に関する注意点
・被害金の全額が戻ってくるとは限らない
振り込んだ口座からすでにお金が引き出されて十分な残高が残っていない場合や、ほかにも同様の被害に遭った方がいる場合は、取り戻せるお金が少なくなってしまいます。また、支払いが行われない場合もあります。なお、犯罪に利用された口座の残高が1,000円未満の場合は、「振り込め詐欺救済法」の支払手続(返金)の対象となりません。
・支払いを受けられるまでに時間がかかる
連絡してから支払いを受けるまで半年程度かかるのが一般的です。
・申請期間内に申請する必要がある
支払申請期間が終了すると「振り込め詐欺救済法」による支払いを受けることができなくなるため、支払申請の期間内に申請する必要があります。詳しくは振込先の金融機関にお問い合わせください。
関連リンク
金融庁「振り込め詐欺等の被害にあわれた方へ」
4「被害回復分配金」の支払いの流れ
続いて、「振り込め詐欺救済法」に基づく被害回復分配金の支払いを受けるための手続きや流れについて解説します。
「振り込め詐欺救済法」による手続きを行うのは振込先の金融機関です。また、手続きにおける公告は預金保険機構において行われます。
被害に遭った方が振り込め詐欺等の被害を申し出て、振り込んでしまった口座が犯罪に利用された疑いがある場合は、金融機関が預金口座等の取引停止措置を行います。
預金口座等が犯罪に利用されたと疑う相当な理由があると金融機関が認めた場合は、犯罪利用口座について口座名義人の権利を失わせる手続き(債権消滅手続)が行われます。
次に被害に遭った方が金融機関に対して申請期間中に支払申請をし、申請を受けた金融機関が被害額の割合に応じて被害回復分配金を支払うことになります。
被害者が振込先の金融機関に申し出る
↓
金融機関が預金口座等の取引を停止する
↓
預金保険機構がホームページ上で犯罪に利用された口座を周知(公告)する
↓
被害者が振り込んでしまった口座がないか確認する
↓
預金保険機構が被害金支払いを受け付ける公告をホームページに掲載する
↓
被害者が金融機関に支払申請をする
↓
金融機関から被害回復分配金が支払われる
5「振り込め詐欺救済法」以外の制度
「振り込め詐欺救済法」のほかにも、「被害回復給付金支給制度」と「消費者団体訴訟制度」という制度があります。
被害回復給付金支給制度
「振り込め詐欺」や「ヤミ金融」などの犯罪で被害を受けた方に給付金を支給する制度です。 組織的な詐欺罪などの財産犯等の犯罪行為により犯人が得た財産(犯罪被害財産)を犯人からはく奪した場合に、それが金銭化され、その事件の被害者に給付金として支給されます。
消費者団体訴訟制度
不当な勧誘や契約条項などによる消費者トラブルの未然防止・拡大防止および被害回復を図る制度です。 内閣総理大臣が認定した消費者団体が、事業者の不当な行為の差止や、消費者に代わって被害の回復を行います。
6「被害回復給付金支給制度」とは?
「被害回復給付金支給制度」の詳細や支給の対象、支給手続きの流れをお伝えします。
「被害回復給付金支給制度」は、犯人からはく奪した犯罪被害財産(財産犯等の犯罪行為によりその被害を受けた方から得た財産等)を金銭化して、そこからその事件により被害を受けた方に給付金を支給する制度です。
支給手続きは、犯罪被害財産を犯人からはく奪する刑事裁判が確定し、はく奪した犯罪被害財産を金銭化して「給付資金」として保管した場合に開始されます。
被害回復給付金支給の対象となる方
刑事裁判で認定された財産犯等の犯罪行為の被害者と、一連の犯行として行われた財産犯等の犯罪行為(いわゆる余罪)の被害者、これらの被害者の相続人などが支給の対象となります。
支給手続きの流れ
支給手続きの開始
↓
申請
↓
検察官による申請内容のチェック、裁定(判断)
↓
裁定書の謄本(とうほん)の送付
↓
被害回復給付金の支給
関連リンク
検察庁ホームページ「被害回復給付金支給制度」
7「消費者団体訴訟制度」とは?
「消費者団体訴訟制度」の詳細、「差止(さしとめ)請求」の流れ、「被害回復」の流れなどについて解説します。
「消費者団体訴訟制度」は、内閣総理大臣が認定した消費者団体が、消費者に代わって事業者に対し訴訟などをすることができる制度です。「差止(さしとめ)請求」と「被害回復」という2つの制度からなっています。
関連リンク
消費者庁「消費者団体訴訟制度」
「差止請求」とは
事業者の不当な行為に対して、内閣総理大臣が認定した「適格消費者団体」が、不特定多数の消費者の利益を擁護するために差止を求めることができる制度です。 適格消費者団体は、事業者の不当な行為(「不当な勧誘」「不当な契約条項」「不当な表示」など)をやめるよう求めることができます。
「適格消費者団体」とは
差止請求権を適切に行使できる専門性などの要件を満たし、内閣総理大臣に認定された消費者団体のことです。
「適格消費者団体」に認定されるための主な要件
● 特定非営利活動法人(NPO)または一般社団法人もしくは一般財団法人であること
● 不特定多数の消費者の利益擁護のための活動を主たる目的として、相当期間にわたり継続して適正に行っていること
● 組織体制や業務規程を適切に整備していること
● 消費生活および法律の専門家を確保していること
● 経理的な基礎を有すること など
差止請求の対象
「消費者契約法」「景品表示法」「特定商取引法」「食品表示法」に違反する不当な行為が差止請求の対象となります。
出典:消費者庁「守ります。あなたの財産 消費者団体訴訟制度」
不当な行為によりトラブルになったときに、個別にトラブルを解決したい場合は消費生活センターに、あなたと同じようなトラブルを防ぎたい場合は適格・特定適格消費者団体に相談しましょう。
「被害回復」とは
不当な事業者に対して、「適格消費者団体」の中から内閣総理大臣が新たに認定した「特定適格消費者団体」が、消費者に代わって被害の集団的な回復を求めることができる制度です。
「特定適格消費者団体」は、消費者に代わって被害回復裁判手続を行い、事業者から被害金額を取り戻すことができます。
「特定適格消費者団体」とは
適格消費者団体になるための要件に加え、被害回復を適切に行うことができる新たな要件を満たしたうえで、内閣総理大臣に認定された適格消費者団体のことです。
「特定適格消費者団体」に認定されるための主な要件
●差止請求関係業務を相当期間にわたり継続して適正に行っていること●被害回復のための組織体制や業務規程を適切に整備していること
●理事に弁護士を選任していること など
被害回復の対象
事業者が消費者に対して負う金銭の支払義務であって、消費者契約に関する「契約上の債務の履行の請求」「不当利得に係る請求」「契約上の債務の不履行による損害賠償の請求」「不法行為に基づく損害賠償の請求」が対象となります。
出典:消費者庁「守ります。あなたの財産 消費者団体訴訟制度」
払ったお金を取り戻したい(被害を回復したい)ときは、特定適格消費者団体に相談しましょう。
(消費生活センターに相談して個別の解決を図ることもできます。)
8「振り込め詐欺」などの被害に遭わないために
ここまでは、万が一「振り込め詐欺」などの被害に遭ってしまった場合の対応についてお伝えしてきましたが、最も重要なのは被害を未然に防ぐことです。振り込め詐欺等の被害に遭わないために、その対策を知っておきましょう。
基本的な対策
・最新の情報を得る
振り込め詐欺などの手口は巧妙化しており、日々変わっていきます。警察や自治体が発信する情報を確認して最新の手口を知り、被害に遭わないようにしましょう。
振り込め詐欺の被害者に対して振り込め詐欺の救済を名乗る詐欺も発生しています。ATMの操作だけでお金が振り込まれることはありませんのでご注意ください。
関連リンク
警察庁「各都道府県警察の特殊詐欺対策ページ」
・常に留守番電話にしておく
自宅の固定電話をきっかけとした詐欺の被害者の多くはご高齢の方です。
家にいるときでも留守番電話に設定しておき、相手を確認してから電話に出るようにしましょう。
・防犯機能付き電話機などを利用する
着信前に警告音声を発する、自動的に通話内容を録音するなどの防犯機能が付いた電話機の導入も効果的といわれています。
自治体によっては、ご高齢者の振り込め詐欺等の被害を未然に防ぐために、防犯機能付き電話機の購入費用などを補助するところもありますので、まずは確認してみましょう。
・事前に家族の合い言葉を決めておく
ご家族と普段から連絡を取り合い、お互いを確認するための合い言葉を決めておくことも対策になります。
「電話番号が変わった」と言われたら、必ず元の電話番号にかけ直しましょう。
・ひとりで判断しない
電話でお金の話が出たら、いったん電話を切りましょう。公的機関の名を出されてもすぐに信用せず、個人情報や暗証番号は教えないでください。
「すぐに振り込まないと大変なことになる」「払い戻しには期限がある」「今日中に手続きをしないと無効になる」などという言葉で急かされても、落ち着いて対応することが大切です。
少しでも「おかしいな」と感じたら、必ずご家族や警察に相談しましょう。
相談窓口
消費者ホットライン 局番なしの 188(いやや!)
警察相談専用電話 #9110
未公開株通報専用窓口(日本証券業協会) 0120-344-999
被疑者に関する情報
匿名通報ダイヤル 0120-924-839
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家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。
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