介護の現場では、ご利用者様やご家族による介護職員へのハラスメントが問題となっています。2021(令和3)年度の介護報酬改定では、介護職員の処遇改善や職場環境の改善に向けた取り組みのひとつとして、すべての介護サービス事業者にハラスメント防止のための必要な措置を講ずることが義務づけられました。今回は、介護の質を高めるためにも重要なハラスメント対策についてお伝えします。
介護現場におけるハラスメントとは

介護現場で起こるハラスメントにはどのようなものがあるのでしょうか。
厚生労働省が公開している「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」では、「身体的暴力」「精神的暴力」「セクシュアルハラスメント」の3つが示されています。
具体的には、介護サービスのご利用者様やご家族等(※)からの以下のような行為が「ハラスメント」と総称されています。
※ご利用者様やご家族等の「等」とは、ご家族に準じる同居の知人または近居の親族を意味しています。
身体的暴力
身体的な力を使って危害を及ぼす行為
「身体的暴力」の例
-
・コップを投げつける
・蹴られる
・唾を吐く
精神的暴力
個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたり、おとしめたりする行為
「精神的暴力」の例
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・大声を発する
・怒鳴る
・特定の職員にいやがらせをする
・「この程度できて当然」と理不尽なサービスを要求する
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
意に添わない性的誘いかけ、好意的態度の要求等、性的ないやがらせ行為
「セクシュアルハラスメント」の例
-
・必要もなく手や腕を触る
・抱きしめる
・入浴介助中、あからさまに性的な話をする

ただし、ご利用者様のなかには認知症などさまざまな病気を抱えている方もいらっしゃいます。
そこで認知症等の病気や障がいの症状として現われた言動(BPSDなど)は、ハラスメントとしてではなく医療的ケアによるアプローチが必要になります。例えば、認知症の「もの盗られ妄想」は認知症の症状としてケアすることとされています。
関連記事:
認知症と向き合うために知っておきたい中核症状と行動・心理症状(BPSD)
また「利用料金の滞納」や「苦情の申立て」も、ハラスメントではなく別の問題として対応する必要があります。例えば、利用料金の滞納について不払いの際の言動がハラスメントに該当することはあっても、滞納自体は債務不履行の問題として対応することとされています。
介護現場におけるハラスメントの予防と対策

2019(平成31)年に行われた介護現場における利用者や家族等によるハラスメントの実態調査の結果から、ハラスメントを受けている職員が少なくないことが明らかになりました。
介護現場で職員がハラスメントかどうか悩んだときや、ハラスメントを受けたと感じたときはどうすればよいのでしょうか。
ハラスメントについて正しく理解する
介護現場でのハラスメントは、職員が我慢してしまうことも多く、表面化しにくいといわれています。
同じ行為を受けてもハラスメントと感じるかどうかは個人差があるため、職員がハラスメントに気づかない場合もあるでしょう。そこで、ハラスメントに関する研修などを通して理解を深め、適切な対応方法を知っておくことが大切になります。

出典:厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」
ひとりで悩まず相談する
ハラスメントを受けたときはもちろん、少しでもおかしいと感じたときは、すぐに相談・報告することが重要です。
認知症などの病気に起因する言動であっても、施設・事業所は医師やケアマネジャー、行政等と連携して組織的に対応する必要があります。ハラスメントかどうかの判断が難しい場合も、ひとりで問題を抱え込まず、上司や相談窓口に相談しましょう。
家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。
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