皮膚の感染症「疥癬(かいせん)」の原因や症状、予防方法について

「疥癬(かいせん)」は人から人へ感染する皮膚の病気で、高齢者施設や病院などで集団発生することもあります。特に免疫力が低下しているご高齢者などは、重症型の疥癬に感染しやすいため注意が必要です。今回は、疥癬(かいせん)の原因や主な症状、そして予防方法などについて解説します。

疥癬(かいせん)とは

疥癬(かいせん)とは

疥癬(かいせん)とは、ヒゼンダニ(疥癬虫)と呼ばれる小さなダニが皮膚に寄生しておこる皮膚疾患です。推定患者数は年間8~15万人といわれています。

ヒゼンダニは、皮膚の最も外側にある「角質層」というところに寄生し、人から人へと感染するので、疥癬の感染の拡大を防ぐために早期発見と早期治療が重要です。


ヒゼンダニとは

ヒゼンダニはとても小さく、肉眼ではほとんど見えません。
ヒゼンダニのメスは、角質層にもぐりこんで「疥癬トンネル」と呼ばれる横穴を掘り、1日2~3個ずつ、4~6週間は卵を産み続けます。卵は3~4日でかえり、幼虫は約2週間で成虫になります。

ヒゼンダニは人の体温より低い温度では動作が鈍くなり、皮膚から離れると長く生きることができません。また乾燥や高熱に弱く、50℃以上の環境では10分ほどで死滅するといわれています。

疥癬(かいせん)の種類・原因・症状

疥癬には通常疥癬(つうじょうかいせん)角化型疥癬(かくかがたかいせん)の2種類があります。違いは次の表の通りです。

通常疥癬 角化型疥癬
ヒゼンダニの数 数十匹以上 100万〜200万
患者の免疫力 正常 低下している
感染力 弱い 強い
主な症状 赤いブツブツ・疥癬トンネル 角質増殖
かゆみ 強い 不定
症状が出る部位 顔や頭を除いた全身 全身


通常疥癬の主な症状

・激しいかゆみ

特に夜になるとかゆみが強くなり、不眠になることもあります。ただし、ご高齢の方はかゆみの訴えが少ない場合があります。

・疥癬トンネル

疥癬特有な線状の皮疹(ひしん)です。手首や手のひら、指の間、指の側面、アキレス腱などに多くみられます。

・赤いブツブツ

ヒゼンダニの抜け殻や糞(ふん)に対するアレルギー反応です。
胸やお腹、腕、太ももなどに赤い小さな丘疹(きゅうしん)がみられ、激しいかゆみを伴います。男性は外陰部に結節(けっせつ)と呼ばれる数mmのしこりがみられることもあります。


(イラスト:赤いブツブツ(丘疹・結節)のそれぞれの好発部位)


丘疹(きゅうしん)と結節(けっせつ)


角化型疥癬の主な症状

・角質の増殖

角化型疥癬の特徴的な症状です。手足やおしり、ひじ、ひざなどに、灰色~黄白色でざらざらの厚いあか(角質)がカキ殻のようにつきます。症状は爪にみられることもあります。
また、かゆみは人によって異なり、かゆみがない場合もあります。

疥癬(かいせん)の予防方法

疥癬(かいせん)の予防方法

正しい手洗いをする

液体石けん流水で手洗いを行いましょう。 指先や指の間、爪の間は念入りに洗います。洗い残しの起こりやすい親指はねじりながら洗い、手首も忘れずに洗いましょう。 手洗いの後は、ペーパータオルでしっかりと水分を拭きとりましょう。 感染の可能性のあるものを直接触らないようにすることも重要です。


皮膚の観察を行う

着替えや清拭(せいしき)、入浴のときなどに皮膚の状態を観察しましょう。 介護をしている方は、ご本人に「夜間の強いかゆみ」や「かゆみによる不眠」などがないか聞いてみましょう。ご家族や同居している方に同じような症状をもつ人がいないかどうかも確認します。

疥癬を疑うべき症状
・夜間の強いかゆみ
・皮膚の湿疹やしこり
・手のひらなどに線状の皮疹(疥癬トンネル)がある

疥癬(かいせん)のケアのポイント

ご自身やご家族が疥癬と診断されたら

対応 通常疥癬 角化型疥癬
手洗い 励行 励行
個室管理 不要 必要
手袋・予防衣の着用 不要 必要
洗濯 通常の方法 以下のいずれかを行う
・乾燥機の使用
・50℃、10 分以上の熱処理
部屋の掃除 通常の方法 粘着シートなどで落屑を回収後、掃除機をかける
入浴 肌に触れるものは共用しない お風呂の順番は最後にする
消毒・殺虫剤の使用 不要 必要


・通常疥癬

感染力の弱い通常疥癬の場合は、個室管理(隔離)の必要はありません。
本人もご家族も丁寧な手洗いをし、できるだけ毎日入浴して清潔を保ちます。こまめな換気や掃除も行いましょう。長時間手をつないだり、同じ布団で寝たりするのは避けましょう。
また、入浴時のタオルやバスマットなど、直接肌に触れるものは共用しないようにしましょう。

・角化型疥癬

できるだけ個室で過ごしていただくようにします。その間、ケアをする方は手袋予防衣を着用し、前後に手洗いをしましょう。
お部屋は粘着シートなどで落屑(らくせつ)を回収した後、掃除機をかけます。消毒や殺虫剤の使用も必要となります。

患者さんが直接触れた寝具や衣類は、50℃以上のお湯に10分以上浸してから洗濯をするか、乾燥機を20~30分使用しましょう。お風呂の順番は最後にし、厚くなった角質をふやかしてこすり落とします。

▼関連記事
ご高齢者がかかりやすい感染症とその予防方法



集団発生したら

施設などで集団発生した場合は、感染源を特定し、入居している方やスタッフなどの検査を行うことが必要になります。

疥癬(かいせん)は命にかかわる病気ではなく、医師の指示に従って治療すれば治る病気です。疑わしい症状がある場合は、できるだけ早く皮膚科を受診しましょう。



▼関連リンク
国立感染症研究所 「疥癬とは」
日本皮膚科学会 皮膚科Q&A 「疥癬」
厚生労働省「高齢者介護施設における感染対策マニュアル」
厚生労働省「感染対策の基礎知識」



ライター:樋口 くらら
家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。

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