認知症による徘徊(はいかい)の原因と効果的な対処法

認知症の方にみられる行動症状のひとつに、家の中や外を歩き回る徘徊(はいかい)があります。徘徊は、転倒や交通事故などにつながる可能性もある危険な行動です。今回は、介護するご家族にも大きな負担がかかる徘徊の原因や効果的な対処法をお伝えします。

認知症の種類別にみる徘徊の原因と症状

認知症の種類別にみる徘徊の原因と症状


徘徊が起こる原因は、見当識障害(時間・場所・人を認識する能力の低下)や判断力障害、不安、焦燥などさまざまです。また、認知症の種類によって症状も異なります。


◯アルツハイマー型認知症
認知症の中でもっとも多いアルツハイマー型認知症の方の徘徊は、とくに注意が必要です。アルツハイマー型認知症では、初期から徘徊の症状がみられることがあり、中期以降は顕著に現れます。

時間や場所、人についての見当識が低下し、建物や風景、目的地との位置関係などが認識できない(街並失認・道順障害)ため、よく知っているはずの場所でも道に迷いやすいです。また、「今どこにいるのか」「自宅はどっちなのか」がわからないことから不安や焦燥が加わり、予想以上に遠くまで行ってしまうこともあります。


○脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血などによって起こる脳血管性認知症の方に多くみられるのは、夜間せん妄による夜中の徘徊です。

夜間せん妄は、夜になると注意力や思考力が低下して、幻覚や妄想、見当識障害などさまざまな症状を引き起こします。また、脳血管性認知症の方は不安を覚えやすい傾向にあり、ストレスなどによって不安がより強まると徘徊につながることがあります。


○レビー小体型(しょうたいがた)認知症
レビー小体型認知症では、いわゆる徘徊とは異なりますが、せん妄や幻視によって家の中を歩き回ることがあります。実際には存在しないものがリアルに見える幻視は、夜間に現れることが多いです。

また、レム睡眠行動障害(RBD)によって、睡眠中に大声を上げる、暴れるなどの行動がみられることもあります。


○前頭側頭型(ぜんとうそくとうがた)認知症
前頭側頭型認知症(ピック病)の方には、同じルートを早足で何回も歩き続ける周徊(常同的周遊)がみられることがあります。初期では道に迷うことはほとんどなく、時間が立つと戻ってくることが多いです。

しかし、脱抑制とよばれる症状によって信号無視や万引き、周囲の人を押しのけるなどの行動を起こすことがあるため注意が必要です。

夕方~夜間に徘徊が悪化しやすい理由とは?

夕方~夜間に徘徊が悪化しやすい理由とは


徘徊などの行動・心理症状は、夕方~夜間に悪化しやすく、「夕暮れ症候群」などと呼ばれることもあります。

この夕暮れ症候群の原因のひとつが、体内時計の乱れ(概日リズムの乱れ)です。認知症の方は、概日リズムを司る視交叉上核(しこうさじょうかく)の神経細胞が減少します。この病理的な原因に、不安・焦燥などの心理要因や環境要因などが加わると、さらに概日リズムが乱れることになります。

環境的な要因とは、施設への入所や引っ越し、寝室の模様替えなどです。また、閉じこもりによって日中に太陽の光を浴びないこと、昼間に寝ていて活動量が少ないことなども要因になります。

夕方~夜間の徘徊を悪化させないためには、心理的、環境的な要因をできるだけ減らして、昼夜逆転の生活を改善することが大切です。

不眠の改善についてはこちらの記事もご覧ください。

ご高齢者の不眠を改善する方法とは?薬に頼らないで快眠する!

ご家族や周囲の方が気をつけたいこと

ご家族や周囲の方が気をつけたいこと


見当識障害が起きると、ご自宅にいても「家に帰らなくては」と言って外へ出ようとすることがあります。

こういうとき、身近な方はつい「ここが家でしょう」「危ないから出ないで」などと否定してしまいがちです。周囲から見れば不可解な言動ですし、交通事故なども心配ですから、理屈で説得したくなるのは無理もないと思います。しかし、認知症の方の世界を頭ごなしに否定したり、責めたりしても通じません。

徘徊には、その方なりの理由や背景があることが多いものです。たとえば「会社に行かなければ」「子どもを迎えに行かなくては」という場合は、いちばん輝いていた現役時代に戻りたいという気持ちがあるのかもしれません。

そのため、ご家族や周囲の方は、認知症になる前のご本人の生活史を知り、理由や背景を想像して対応することが大切です。「人生でいちばん幸せだった時期はいつか」「若い頃に好きだったことは何か」などがわかると、ご本人が安心できるような言葉が見つかることもあります。

また、普段の様子をよく観察して、ストレスになっていることはないか考えてみましょう。もし思い当たることがあれば、できるだけストレスを解消するようにします。

認知症の方への接し方についてはこちらの記事もご覧ください。

自尊心を傷つけない認知症の方とのコミュニケーション方法」

徘徊で困ったときの対応方法

徘徊で困ったときの対応方法


前述のように、認知症の方の徘徊の原因や症状はさまざまで、対応方法もそれぞれ異なります。ここでは、ご自宅から外へ出ようとする徘徊の具体的な対応方法をお伝えします。

「家に帰る」と言い出したとき(帰宅欲求)

まずは「そうだね」「じゃあ、一緒に帰ろうか」などといったん受け止めます。そして「お菓子を用意しましたから、お茶をもう一杯どうぞ」「夕食もぜひご一緒に」「明日の朝送りますから、今夜は泊まっていってください」などと声をかけてみましょう。

また、ご本人が好きなことを話題にしたり、得意なことを頼んだりして関心をそらすと、帰ろうとしたことを忘れて落ち着く場合があります。「帰る理由」がころころと変わることもありますが、ご本人のお話に合わせてうまくサポートをすることが必要です。

同じコースを歩き続けるとき(周徊)

原因や目的がはっきりしない周徊の場合は、無理に妨げずに見守ることも方法のひとつです。危険な場所を歩いていないかなどを確認しながら、安全に歩けるように配慮しましょう。脱げにくく歩きやすい靴を履いていただき、転倒のリスクがある場合は、頭部保護帽やヒッププロテクターなどの着用を考えます。また、疲れても休まずに歩き続けてしまうことがあるため、休息が取れるような工夫も必要です。制止するのではなく、ご本人が好きなことを提案して関心をそらすなどの対応をしてみましょう。

夜間に外へ出ていこうとするとき

徘徊がひどくて夜間にひとりで外に出てしまうときなど、やむを得ない場合は、徘徊感知機器(マットレス型・送信機型・人感センサー型など)や徘徊防止用の鍵などを活用する方法があります。夜間は鍵をかけても、1日中家に閉じ込めるのではなく、昼間は一緒に散歩や買い物に出かけるなどして気晴らしをすることが大切です。

昼間の活動量が少ない場合は、趣味の時間をつくる、デイサービスを利用するなどして、楽しく活動できる環境を整えてみましょう。また、昼夜逆転していた方が、ショートステイを利用して生活リズムを取り戻すケースもあります。

知らない間に外に出てしまったとき

もし徘徊で行方不明になってしまった場合は、ご家族だけで探そうとせず、まずは速やかに警察に捜索依頼を出してください。次に、お近くの地域包括支援センターや町内会、ケアマネジャーなどにも相談しましょう。自治体等によっては、ご高齢者のための「SOSネットワーク」を構築しています。(事前登録などが必要な場合があります。)



頻繁に徘徊が起こる場合は、万が一のことを考えて、名前や連絡先などを記載したものを洋服の内側に縫いつけたり、お守りの中に入れたりしておきましょう。

また、普段からご近所の方や近くの交番に事情を説明して協力を仰いでおくことも重要です。GPS機能をもった携帯端末機を貸し出している自治体もありますので、お住まいの市区町村へ問い合わせてみてください。

ライター:樋口 くらら
家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。

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