ご高齢者による自動車運転事故の現状と未然に防ぐための対策

高齢化の進展に伴い、近年は交通事故死者数の半数以上をご高齢者が占める状況のなか、ご高齢の運転者による交通事故も発生しています。今回は、ご高齢者による運転事故の現状に注目し、加齢に伴う身体的特性や事故を未然に防ぐための対策についてまとめました。

ご高齢の運転者による事故の現状

ご高齢の運転者による事故の現状

ご高齢の運転免許保有者の増加

高齢者人口の増加に伴って、75歳以上の運転免許保有者数は増え続けています。
2019年(令和元年)には、75歳以上の運転免許保有者数が約583万人、そのうち80歳以上は約229万人となりました。

10年前の2009年(平成21年)と比較すると、75歳以上が約1.8倍、80歳以上が約1.9倍に増えています。

75歳以上・80歳以上の運転免許保有者数の推移

出典:内閣府「令和2年交通安全白書」


ご高齢の運転者による死亡事故の発生状況

75歳以上の運転者による死亡事故件数(免許人口10万人当たり)は減少傾向にあります。
しかし、75歳未満の運転者と比べて2倍以上となっており、ご高齢の運転者ほど死亡事故を起こしやすい傾向にあることがわかります。

75歳以上高齢運転者による死亡事故件数の推移

出典: 警察庁「令和3年上半期における交通死亡事故の発生状況」


2021年(令和3年)6月末の人的要因別死亡事故件数をみると、75歳以上の運転者は「操作不適」による事故が35.7%と最も多くなっています。このうち「ハンドル操作不適」は18.9%、「ブレーキとアクセルによる踏み違い」は9.8%でした。

自転車運転者による年齢層別死亡事故の人的要因比較

出典: 警察庁「令和3年上半期における交通死亡事故の発生状況」


運転に影響を及ぼす心身の変化

運転に影響を及ぼす心身の変化

ご高齢者の身体的特性

ご高齢者の加齢による身体的特性については個人差があるものの、一般的に視力や聴覚、注意力などが低下します。また、体力の衰えから疲れがたまりやすくなり、運転に影響を及ぼすことがあります。

運転能力に影響を与える身体の変化

・視野が狭くなり、周辺にあるものを見落としやすくなる
・動体視力が衰え、動いているものが見えにくくなる
・夜間視力が低下し、暗い所でものが見えにくくなる
・聴覚が衰え、高音から徐々に聞こえにくくなる
・体力・筋力が低下し、不的確な運転操作などにつながりやすい
・判断力・注意力が低下し、対応の遅れや情報の見落としなどが生じやすい

運転能力の過信

ご高齢の方は運転歴の長い方が多く、経験を過信して自分本位の運転になる傾向があるようです。また、先進の安全技術を備えた車の機能に助けられて、加齢による運転能力の低下に気づかない場合もあります。

認知機能の低下

加齢に伴う認知機能の低下も懸念されています。75歳以上の運転者の認知機能検査結果をみると、死亡事故を起こした運転者は全受検者と比べて「第1分類(認知症のおそれ)」と「第2分類(認知機能低下のおそれ)」と判定された方の割合が高くなっています。

認知機能検査受検者の検査結果と死亡事故を起こした75歳以上の高齢運転者の検査結果

出典:警察庁「75歳以上の高齢運転者による交通死亡事故に関する分析」

運転事故を未然に防ぐための対策

運転事故を未然に防ぐための対策

道路交通法等の改正

2017年(平成29年)3月の道路交通法改正では、「高齢運転者対策の推進」として認知機能検査が強化されました。

高齢者講習

70歳以上の方が運転免許証の更新を希望する場合は、高齢者講習の受講が義務づけられています。75歳未満の方は、計2時間の高齢者講習(合理化講習)を受けます。

更新時の認知機能検査

75歳以上の方が運転免許証を更新するときは、「高齢者講習」の前に認知機能検査の受検が必要です。この認知機能検査の判定によって、受ける「高齢者講習」の内容が変わります。
認知機能検査で「認知機能の低下のおそれがない」と判定された方は、計2時間の高齢者講習(合理化講習)を受けます。その他の方は、個別指導を含む計3時間の高齢者講習(高度化講習)を受けることになります。
また、「認知症のおそれがある」と判定された場合は、臨時適性検査(医師の診断)の受検または主治医等の診断書提出が必要です。

臨時認知機能検査

75歳以上の運転者が、認知機能が低下した場合に行われやすい一定の違反行為(18基準行為)をしたときに、受けなければいけない検査です。

臨時高齢者講習

「臨時認知機能検査」の結果、「認知機能の低下が運転に影響するおそれがある」と判断された方は、臨時高齢者講習(実車指導と個別指導)を受けます。

臨時適性検査または診断書提出命令

「更新時の認知機能検査」または「臨時認知機能検査」で「認知症のおそれがある」と判定された方は、臨時適性検査(医師の診断)を受けるか、命令に従い主治医等の診断書を提出しなければなりません。(※ 医師の診断の結果「認知症」と判断された場合は、運転免許の取消しまたは停止となります。)


運転免許自主返納とサポート体制

運転免許証には、「自主返納」という制度があります。運転免許を返納した方は、過去の運転経歴を証明する「運転経歴証明書」の申請が可能です。
運転経歴証明書は、運転免許を返納した日からさかのぼって5年間の運転に関する経歴を証明するもので、2012年(平成24年)4月1日以後に交付されたものは、運転免許証と同じように公的な身分証明書として用いることができます。

また、「高齢者運転免許自主返納ロゴマーク」のあるお店や施設で提示することで、割引などのさまざまな特典が受けられます。 自主返納について詳しくは、運転免許センター、またはお近くの警察署にお問い合わせください。

運転をやめる決断は、生活の足として車が欠かせない地域にお住まいの方にとって重大なことでしょう。
そのため、自治体などでは地域の実情に応じた支援を行っている場合があります。自主返納した後の生活に不安をお持ちの方は、お住まいの地域のサポート体制を確認してみてください。


「安全運転サポート車」の普及

安全運転サポート車とは、衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)やペダル踏み間違い時加速抑制装置等を搭載した車のことです。搭載された機能に応じて「セーフティ・サポートカー(サポカー)」や「セーフティ・サポートカーS(サポカーS)」と呼ばれています。
政府は、高齢運転者等による交通事故防止対策の一環として「安全運転サポート車」の普及啓発に取り組んでいます。


高齢運転者標識の活用

高齢運転者標識の活用

道路交通法では、70歳以上の方で「加齢に伴って生ずる身体機能の低下が運転に影響を及ぼすおそれがある」場合は、普通自動車の前面と後面の両方に「高齢運転者標識」を付けて運転するように努めなければならないとされています。

現在の高齢運転者標識は「四つ葉マーク」ですが、従来の「もみじマーク」も引き続き使用可能です。
他の運転者の遵守事項として、高齢運転者標識を表示した普通自動車に対する幅寄せ・割込み(危険防止のためやむを得ない場合を除く)は禁止されています。

70歳以下のご高齢者を対象とした安全運転のための講習会も、各地域(自動車教習所・公民館など)で開かれています。ご自身の運転を客観的に見直したい方、自主返納をお考えの方は、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。講習会の名称や内容は講習によって異なりますので、詳細はホームページ等でご確認ください。

ライター:樋口 くらら
家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。

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