ご高齢者の一人暮らしの現状と問題、その対策について

わが国では、核家族化や高齢化が進み、ご高齢者が単身で暮らす割合が増えています。また、近所付き合いも少なくなり、ご高齢者の孤立化から、様々な社会問題が生じています。
今回は、ご高齢者の一人暮らしの現状を紹介し、その問題や対策についてお伝えします。

ご高齢者の一人暮らしの現状

ご高齢者の一人暮らしの現状

わが国の高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は、2019(令和元)年10月1日時点で28.4%です。少子化等の影響から日本の人口は今後も減少傾向にあり、さらに高齢化が進んでいきます。

そのような状況のなか、ご高齢者だけの世帯やご高齢者の一人暮らしが多くなっています。
65歳以上の方のいる世帯のうち、高齢者世帯の世帯構造をみると、「単独世帯」が 736万 9 千世帯(高齢者世帯の 49.5%)、「夫婦のみの世帯」が693 万 8 千世帯(高齢者世帯の 46.6%)でした。
「単独世帯」については、男性が 35.0%、女性が 65.0%となっています。また、性別に年齢構成をみると、男性は「65~69 歳」が 30.9%、女性は「75~79 歳」が 22.2%で最多となっています。

出典:
内閣府 令和2(2020)年版高齢社会白書 
厚生労働省 2019年 国民生活基礎調査の概況

ご高齢者の一人暮らしで抱える問題

ご高齢者の一人暮らしで抱える問題

生活意欲の低下

内閣府の「令和元年度 高齢者の経済生活に関する調査」によると、「現在、どの程度生きがい、喜びや楽しみを感じているか」の問いに対し、「あまり感じていない」「まったく感じていない」と答えた人の割合が、全体の19.8%であることがわかりました。
この背景には、家族や友人との交流、趣味などを通した社会活動への参加機会等が乏しく、日常的に人との関わりがない人が増えていることがあるといえます。

消費者トラブル

国民生活センターによると、60歳以上である契約当事者から全国の消費生活センター等に寄せられた相談は約37万件(2019年度)でした。
年代別にみると、60歳・70歳代の相談件数は減少していますが、80歳以上の相談件数は増加しています。
相談内容については、「健康食品などの定期購入に関する相談」や「情報通信関連の相談」が増加しています。また、80歳以上になると「工事・建築」「新聞」「訪問販売」「電話勧誘販売」の相談が多くなる傾向にあります。

孤独死

孤独死(誰にも看取られることなく、亡くなったあとに発見される死)と考えられる事例は年々増加傾向にあります。
一般社団法人 日本少額短期保険協会の孤独死対策委員会「第5回孤独死現状レポート」によると、孤独死者の平均年齢は男女ともに約61歳でした。

内閣府の令和2(2020)年版高齢社会白書によれば、孤立死を身近な問題だと感じる人の割合は、60歳以上の方全体で34.1%ですが、一人暮らし世帯では50.8%と5割を超えています。
東京23区内における65歳以上の一人暮らしの方のご自宅での死亡者数は、2018(平成30)年に3,882人となっています。

認知症などの進行

「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」では、認知症の方はさらに増加し、2025(令和7)年には 約700万人(約5人に1人)となると推計されています。 認知症になると、判断能力の低下などにより、犯罪や事故などに巻き込まれてしまうケースも少なくありません。

ご高齢者の一人暮らしの対策のために

ご高齢者の一人暮らしの対策のために

ご家族ができる対策

1.同居する
ご高齢者の一人暮らしの対策として、「同居」を考えている方は少なくないのではないでしょうか。ご高齢のご両親が遠方に住んでいる場合、ご家族と離れて自分だけ同居するというケースも考えられますが、仕事をしているのであれば、同居を機に離職せざるを得ないという可能性もあります。
同居することのメリットとデメリットを見つめ直して、ご家族みなさまでご検討ください。

・同居のメリット(一例)
ご高齢者にとって安心して生活しやすい環境となります。
ご高齢者の生活全般において、支援や見守りができ、事故や病気をはじめ、生活上でのトラブルに対するリスクを軽減できます。また、ご家族の存在が身近に感じられ、寂しさを感じにくくなります。

・同居のデメリット(一例)
ご家族の負担が大きくなりやすいです。
ご家族世帯との同居の場合、生活習慣や生活リズムなどの違いを受け入れていく必要があります。特に子どもが小さい場合には、子育てとともに同居のご高齢者のお世話も必要となり、共倒れとなってしまうことも考えられます。


2.成年後見人になる
ご高齢になると、どうしても判断能力が衰え始めます。さらに認知症を患ってしまうと、日常的な判断はさらに難しくなります。判断能力の不十分なご高齢者は、金銭管理や介護サービスなどの契約を行うことなど、手助けが必要となる場合があります。

不利益な契約を結ばせるトラブルに巻き込まれてしまうことは、社会問題にもなっています。このような判断能力の不十分な一人暮らしのご高齢者に代わって、日常生活に必要な金銭の管理や契約などを支援するのが「成年後見制度」です。

成年後見制度は、家庭裁判所に申請し選ばれた成年後見人が、ご本人の利益を考えながら、代わりに契約を行うことができます。またご本人が成年後見人に同意を得ずに行った不利益な契約などについては、後から取り消しを行うことができます


3.サービスを利用する
同居が難しい場合は、公的な見守りサービスや自治体が独自に行っているサービスを活用することで、一人暮らしのご高齢者が社会的な支援を受けることができます。

地域包括支援センターの利用

・地域包括支援センターの利用
「これから介護サービスを受けたい」「介護サービスについて相談したい」という場合は、まずは地域にある「地域包括支援センター」を訪れてみてください。

地域包括支援センターは、地域に住むご高齢者のために、介護サービスの導入や健康増進のための支援を行っている公的な相談所です。主任ケアマネジャー、社会福祉士、保健師が配置されており、ご高齢者に対するさまざまなサポートを専門的見地によって行います。

ご高齢者のための地域の拠点として、福祉だけではなく、医療や行政などと連携しながら適切な対応をとっているので、とても便利で安心なサービスです。ご自身やご家族がお住まいの地域には、どこに地域包括支援センターがあるのか事前に確認しておくとよいでしょう。


・自治会や町内会への加入
自治会や町内会は、加入する人が少なくなったように思いますが、加入することで地域住民との繋がりができるなど、大きなメリットがあります。

例えば、災害が発生した際には、近隣の安否確認を行い、ご高齢者の一人暮らしの世帯があれば、いち早く確認し必要な対策を講じる自治会もあります。


・自治体や社会福祉協議会のサービス
各地方自治体や社会福祉協議会においても、独自の支援を行っています。
「安否確認」「緊急通報システムの設置」「外出支援」「サロンの開催」「金銭管理」「配食サービス」など、さまざまなサービスを行っていますので、うまく活用すると良いでしょう。

高齢者福祉については、介護保険サービスの他にも給食サービス事業、緊急通報装置レンタル事業、徘徊高齢者等家族支援事業等のサービスがありますので、積極的に活用していくことをおすすめします。



ご高齢者の一人暮らしの対策として、ご家族との「同居」が挙げられますが、遠方に住んでいる、子どもが小さい、経済的な問題がある、仕事をしている等、同居できない理由も各ご家庭さまざまかと思います。

ご高齢者の病気や孤独死、消費者トラブルを事前に防ぐためにも、お住まいの地域のさまざまなサービスにも目を向け、それぞれのご家族に合った方法をご検討してみてください。

ライター:井上歳行
特別養護老人ホーム責任者、居宅介護支援事業所の管理者を経て、現在、介護コンサルタントに取り組んでいます。 主任介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士を取得しています。

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