ご高齢者が気をつけたい服薬トラブルと処方薬との上手な付き合い方

処方薬は、病気を治したり、症状を軽くしたりするうえで大切なものです。しかし、ご高齢者は身体機能が低下しているため、薬の副作用や事故が起こりやすくなっています。今回は、ご高齢者に多い服薬トラブルをご紹介し、そのリスクを避けるための方法についてまとめました。

ご高齢者に多い服薬トラブル

ご高齢者に多い服薬トラブル

ご高齢者は複数の病気を抱えていることが多く、処方薬の種類や量は病気の数だけ増えていきます。いくつかの持病をもつご高齢者は、何種類もの処方薬を服用していることも珍しくありません。また、ご高齢者の病気は慢性である場合が多く、薬を飲む期間も長くなりがちです。

副作用

薬を飲んだ時に、本来の目的以外の好ましくない作用が現れることを「副作用」といいます。加齢によって肝臓や腎臓の機能が低下すると、薬の代謝と排せつに時間がかかり、薬が体内に長くとどまる傾向にあります。
また、ご高齢者は細胞内の水分量が減り、体脂肪は増加するため、水溶性の薬の血中濃度は上昇しやすく、脂溶性の薬は身体に蓄積しやすくなります。その結果、薬が効きすぎて思わぬ副作用が出る可能性が高くなるのです。

ご高齢者の副作用は、重症化することも少なくありません。5つ以上の薬を服用している方は、ふらつき、転倒などの副作用に注意が必要です。ご高齢者は骨がもろくなっているため、ふらつきや転倒によって骨折し、要介護状態となるおそれもあります。

ご高齢者に多いお薬の副作用

ふらつき・転倒・もの忘れ・食欲低下・便秘・排尿障害・うつ・せん妄
※副作用を心配するあまり、自己判断でお薬を減量・中断することは危険です。気になる症状が出た場合は、早めに医師や薬剤師に相談しましょう。

相互作用(飲み合わせ)

2種類以上の薬が互いに影響し合い、薬の効果が変化することを「相互作用」といいます。相互作用が起こると、薬の効き目が強くなりすぎたり、弱くなったりすることがあります。医師に処方してもらう薬(医療用医薬品)のほかに、薬局等で買える薬(一般用医薬品・要指導医薬品)やサプリメント、健康食品にも注意が必要です。
また、食品との飲み合わせによって、薬の効き目が変化する場合もあります。気をつけたい代表的な食品は、グレープフルーツ(ジュース)・牛乳・ヨーグルト・チーズ・納豆・緑黄色野菜・カフェイン・アルコールなどです。

飲み忘れ・飲み間違い

ご高齢者は認知症の症状がなくても、薬を飲み忘れたり、勘違いして同じ薬を重ねて飲んだりすることがあります。見た目が似ている薬の飲み間違いも、視力が低下したご高齢者に多いトラブルです。
また、ご高齢者が錠剤やカプセルを包装シートのまま飲んでしまう事故が後を絶ちません。包装シートごと誤飲しても、腹痛などの症状が出て病院へ行くまで気づかない場合もあります。
万が一、飲み間違いがあった場合は、かかりつけの医師または、薬の処方元の薬局に相談してください。

ご高齢者のお薬の飲み方

ご高齢者のお薬の飲み方

誤嚥・誤飲に注意する

嚥下(えんげ)機能が低下しているご高齢者が薬を飲む時は、誤嚥(ごえん)に気をつけることが重要です。
錠剤やカプセル、粉薬が飲みにくい場合は、ゼリー状のオブラートを使うと飲みやすくなります。お口の中が乾いている時は、水や濡らしたガーゼ等で湿らせてから服用しましょう。
服薬介助をする場合は、基本的に食事介助と同じです。寝たきりの方は、上体を約30度に起こしてから薬を飲ませ、服用後はしばらくそのままの姿勢を保ちます。

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服用時間を守る

内服薬は「食前」「食後」「食間」などの決められた服用時間を守りましょう。

▼内服薬を飲むタイミング

     
食前 胃の中に食べ物が入っていない時(食事の約60~30分前)
食後 胃の中に食べ物が入っている時(食事の約30分後)
食間 食事と食事の間(食事の2時間後が目安)
※食事中に服用することではありません。
就寝前 寝る30分くらい前
頓服(とんぷく)発作や症状が出た時
※ その他に細かい指示がでている薬もあるため、必ず主治医の指示通りに服用してください。

飲む量・期間を守る

処方薬は、必要があって出されていることがほとんどです。急に飲むのをやめると危険な薬もあります。症状が軽くなっても、ご自身の判断で薬を減らしたり、中断したりしないようにしましょう。
また、薬は直射日光を避け、湿気の少ない涼しい場所で保管するのが基本です。なかには「冷所保存」や「遮光保存」などが必要なものもありますので、それぞれの薬に適した保管方法をよく確認しましょう。

麻痺(まひ)がある方の場合

片麻痺(へんまひ)がある方は、お口の患側(麻痺している側)に薬が残ってしまうことがあります。介助をする場合は、健側(麻痺がない側)から薬を入れるようにし、服用後はお口の中に薬が残っていないか確認しましょう。

認知症の方の服薬介助

認知症の方は、薬を飲んだことを忘れて「まだ飲んでいない」と要求することがあります。そのような時は否定せず、まずはご本人のお話に耳を傾けて安心していただきます。それから、お薬の空き袋やお薬カレンダーのチェックを見てもらい、さりげなく説明するなどの工夫をしてみましょう。
また、服薬を嫌がる場合は、無理に勧めると逆効果になります。服薬時間をずらしてもよい薬なのかどうかを事前に主治医に確認し、可能であればタイミングを見計らって飲んでいただきましょう。

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ご高齢者のお薬の管理

ご高齢者のお薬の管理

かかりつけ薬局をもつ

複数の医療機関から処方せんをもらう場合でも、薬はひとつの薬局で受け取るようにするとよいでしょう。お薬手帳も一冊にまとめ、かかりつけ薬剤師に薬の効果や副作用について確認してもらうと安心です。
なお、厚生労働大臣が定める一定基準を満たした「健康サポート薬局」なら、薬に関することだけではなく、介護や食事など健康に関することも気軽に相談できます。

一包化してもらう

薬が多くて飲み忘れや飲み間違いが心配な方、薬をシートから取り出すのが困難な方は、かかりつけ薬局に「一包化(いっぽうか)調剤」をお願いする方法があります。
「一包化調剤」とは、何種類かの薬を服用1回分ずつ1袋にまとめることで、複数の医療機関から処方せんをもらっている場合でも可能です。(※一包化調剤は有料です。一包化できない場合もあります。)

専用のツールを使う

薬管理用のケースやカレンダーを利用すると、飲み忘れや飲み間違いを防ぐことができます。薬の包みに日付を書いておく、服用時間にアラームをセットしておくなどの方法も有効です。
手が不自由でシートから薬を取り出しにくかったり、落としてしまったりする方は、簡単に薬を取り出せる補助器具を活用してみましょう。そのほかにも、スプレータイプ吸入薬のための吸入補助具、目薬用の点眼補助具、軟膏用の絞り出し器等の補助器具があります。

管理を手伝ってもらう

認知症などでご自身での服薬管理が難しい方は、ご家族や介護ヘルパーに手伝ってもらうとよいでしょう。
また、薬剤師がご自宅を訪問するサービス(居宅療養管理指導・在宅患者訪問薬剤管理指導)を利用できる場合もありますので、医師や薬剤師、ケアマネジャーに相談してみてください。



医療機関で診察を受けたり、薬局で薬を購入したりする時は、現在使っている薬やサプリメント、健康食品などをすべて伝えることが必要です。お薬手帳等を活用し、医師や薬剤師から十分に説明を受け、よく理解してから正しく使用しましょう。

ライター:樋口 くらら
家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。

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