QOL(生活の質)を維持・向上するご高齢者の筋力トレーニング

年齢を重ねても健康で充実した毎日を送るためには、適度な筋力トレーニングを継続的に行うことが大切です。今回は、ご高齢者のお身体の特徴についておさらいし、筋力トレーニングの方法やその効果、注意点などをご紹介します。

ご高齢者の身体の特徴

ご高齢者の身体の特徴

ご高齢者は、加齢によって「抗重力筋(こうじゅうりょくきん)」と呼ばれる筋肉が衰えやすくなります。抗重力筋とは、重力に対して姿勢を保持するために働く筋肉のことです。全身には大小合わせて約400個もの筋肉がありますが、抗重力筋は「立つ」「歩く」「姿勢を保つ」など日常的な動作の基盤となります。
そのため、ご高齢者は抗重力筋が衰えると日常生活に支障が出ることがあり、QOL(生活の質)の低下につながりかねないのです。

抗重力筋には、太ももの前側にある大腿四頭筋(膝を伸ばす働き)、お尻にある大臀筋(太ももを後方に引く働き)、腹筋群背筋群(上体を支える働き)などがあります。ご高齢者の介護予防や転倒予防、QOL(生活の質)の維持・向上のためには、これらの筋肉をしっかりと鍛えることが重要です。

ご高齢者の筋力トレーニング

ご高齢者の筋力トレーニング

筋力トレーニングを行うことで、ご高齢者にとって大事な抗重力筋を鍛えることができます。それぞれの筋肉の位置を意識しながらトレーニングをすると、より効果的です。ここでは、上半身と下半身の筋力アップを図るエクササイズをひとつずつご紹介します。
(※ 筋力トレーニングは、かかりつけ医に相談してから行ってください。)

上半身の筋力を高めるエクササイズ

【手のひらの押し合いっこ】
① 椅子に腰かけて、胸の前で手を合わせ、ひじを開きます。脇はこぶし1個分ほど開きます。
② 合わせた両手を押し合うように力を入れ、同時に胸にも力を入れます。
※ 合わせた手は、身体の真ん中に位置するように力を出し合いましょう。
③ 5秒ほど力を入れたら、ゆっくりと力をゆるめます。
④ 無理のない範囲でゆっくりと、①~③ をくり返します。(5~6回を1日3回が目安です)

【ポイント】
・動作の最中は、呼吸を止めないようにします。
・胸(大胸筋など)や背中(広背筋など)の筋肉を意識しながら行いましょう。


下半身の筋力を高めるエクササイズ

【椅子に座ったままできるスクワット】
① 椅子に腰かけて(支えが必要な方は机に手をついて)、足を腰の幅に開きます。
※かかとは床にしっかりつくようにしましょう。
② 上半身を少し前に傾けて、目線は前方に向けます。
③ かかとに体重をのせて、太ももに力を入れます。
④ お尻をしめるように、しっかりと立ちます。
⑤ 無理のない範囲でゆっくりと、①~④をくり返します。( 5~10 セットが目安です)

【ポイント】
・動作の最中は、呼吸を止めないようにします。
・立つとき・座るときは、膝がつま先より前に出ないように注意します。
・太ももの前と後ろ(大腿四頭筋・大腿二頭筋)、お尻(大臀筋)の筋力を意識しながら行いましょう。


筋力トレーニングの主な効果

筋力の向上・筋肉量の増加
効果的な筋力トレーニングによって、筋力が強くなり、筋肉量(骨格筋量)が増加します。
筋力が強くなると、移動能力が向上し、転倒などを防ぐことができます。また、筋肉量が増えることにより、基礎代謝の向上や血流の改善などが期待できます。

サルコペニアの予防・改善
加齢や不活発な生活、栄養状態、病気などによって筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下することを「サルコペニア」といいます。ご高齢者の筋力トレーニングは、サルコペニアの予防・改善に効果的です。
また、要介護のリスクが高まるロコモティブシンドローム(運動器症候群)やフレイル(加齢により筋力や活動が低下し、心身が脆弱していること)、生活習慣病を予防・改善する効果も望めます。

QOLの維持・向上
日常生活に必要な姿勢を保つ能力、移動する能力の向上は、生活機能やQOL(生活の質)の維持・向上につながります。筋力が強くなり、筋肉量が増えると関節への負担が減るため、つらい腰痛や膝痛の軽減にも有効です。
また、嚥下(飲み込み)に関わる筋力を鍛えて嚥下機能を維持・改善することで、低栄養や誤嚥(ごえん)性肺炎のリスクを減らし、おいしい食事を楽しむことができます。

トレーニング時の注意点

トレーニング時の注意点

ご高齢者が筋力トレーニングを行うときは、がんばり過ぎないことが重要です。
ご高齢者の筋組織は若い方に比べて傷つきやすいため、思わぬケガや病気、関節の痛みなどにつながるおそれがあります。運動を始める前に必ずかかりつけ医に相談し、体調が悪いときは無理をせず、ご自身のペースで取り組みましょう。

また、運動は楽しくないと続けることがなかなか難しいものです。ウォーキングやストレッチ、ラジオ体操、水泳などのなかから、ご自身が「楽しい」「心地いい」と感じられる運動をみつけてみてください。
運動が苦手な方は、毎日の家事や買い物、庭の手入れ、散歩などで身体を動かしてみましょう。1日のなかで今より10分多く身体を動かすだけでも、健康寿命を延ばせます。



筋力トレーニングとともに、日ごろからこまめに身体を動かして衰えやすい筋肉をしっかりと使うことが大切です。
何歳になっても、筋肉は鍛えて発達させることができるといわれています。いつまでも若々しく元気でいるために、周囲の人との交流を楽しみながら活動的な毎日を過ごしましょう。

ライター:樋口 くらら
家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。

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