介護における悩みのひとつとして挙げられる「ニオイ」。デリケートな問題だけに、誰にも相談できないという方も多いのではないでしょうか。今回は、介護に伴うさまざまなニオイの原因やその影響、解決方法についてお伝えします。
介護に伴うニオイのもと
お口のニオイ
口臭の主な原因は、お口の中の細菌です。ご高齢者は、加齢やお薬の副作用などによって唾液(だえき)の分泌量が減り、お口の中の細菌が増えやすくなっています。
この細菌がタンパク質成分を分解するときに発生するのが、揮発性硫黄化合物(きはつせいいおうかごうぶつ)というものです。代表的な揮発性硫化化合物には、以下のような特有のニオイがあります。
・卵がくさったようなニオイ(硫化水素)
・魚や野菜がくさったようなニオイ(メチルメルカプタン)
・生ゴミのようなニオイ(ジメルサルファイド)
誰にでもある口臭(生理的口臭)は、必要以上に気にすることはありませんが、部屋中に蔓延するほどきつい場合は、お口のトラブルの可能性があります。
身体のニオイ
年齢を重ねると皮脂腺から出る「脂肪酸」や「過酸化脂質」の量が増え、加齢臭が発生しやすくなります。また、糖尿病や内臓の病気等によって体臭が変化する場合があります。
介護が必要なご高齢者は、毎日お風呂に入ることが難しく、衣類や寝具にニオイがしみついてしまうとなかなか消えません。ご高齢者のなかには入浴や洗髪を嫌がる方もいらっしゃるため、汗・垢・皮脂などに雑菌が繁殖して体臭を強く感じることもあるでしょう。
排せつ物のニオイ
排せつ物のニオイは、食欲低下や不眠などにつながる可能性もある深刻な問題です。
認知症の方は、トイレの場所がわからなかったり、尿意や便意を自ら訴えられなかったりして、トイレの失敗が増えることがあります。また、大便をいじる「弄便(ろうべん)」という行為がみられると、部屋中にニオイが充満してしまい、介護者にとって非常に大きなストレスとなります。
ニオイがもたらす影響
介護に伴うニオイは精神的な負担が大きく、QOL(生活の質)の低下を招きます。
介護をするご家族は日々の疲れやストレスも重なり、ご高齢者の虐待、介護うつなどにつながりかねません。また、介護を受けるご高齢者も心理的な負担を感じ、排せつの回数を減らそうと飲食を控えたり、尿意・便意を無理に我慢したりすることがあります。
ニオイの悩みは、介護をする方もされる方もなかなか口に出しにくいものです。「家族になら話せる」という方もいらっしゃいますが、「家族だからこそ話しにくい」という方も多いでしょう。
誰にも相談できずに悩んでいる方はご自身だけで抱え込まず、身近な方やケアマネジャーなどに相談してみてください。
仕事と介護の両立支援制度や生活福祉資金貸付制度など、介護を支援する制度もうまく利用し、がんばり過ぎないことが大切です。介護保険制度だけではなく、自治体によってさまざまな支援を行っていますので、お住いの自治体の相談窓口にも問い合わせてみましょう。
介護のニオイ対策
環境の工夫
定期的に窓や扉を開けて風通しを良くし、お部屋を快適に保ちましょう。
また、汚れた衣類、シーツなどは、早めに交換することが大切です。使用後の紙おむつやパッドは、小さく丸めてから素早くビニール袋に入れ、消臭スプレーを吹きかけて密閉するとニオイを抑えられます。
尿がトイレの床やマットなどについてしまった場合は、時間がたつほどニオイが残りやすいため、すぐに拭き取るか洗濯するようにしましょう。ベッドやお布団には、介護用防水シーツを活用すると尿のしみ込みを防ぐことができます。
食生活の工夫
尿のニオイ対策
体内の水分量が少ないと尿のニオイがきつくなりやすいため、日中はこまめに水分をとりましょう。飲み物だけで水分を補うのが難しいときは、水分量の多いお食事やおやつを選ぶとよいでしょう。適度な水分補給は、ご高齢者に多い「脱水症」の予防にもなります。
便のニオイ対策
便秘になると便やおならのニオイがきつくなります。ご高齢者は便秘になりやすいため、食事や運動、排便習慣(朝決まった時間にトイレに行く・便意を感じたら我慢しない)などを見直して、便秘を予防・解消することも対策のひとつです。
また、ニオイがきつくなりやすい食品(ニンニク・ネギ・ニラなど)は、控えめにするとよいでしょう。
口腔ケア
口臭予防のために「唾液腺マッサージ」などを行い、唾液の分泌をよくしましょう。
また、お口の中を清潔に保つことも重要です。唾液の減少のほかに、歯周病や歯垢、舌苔(ぜったい)、義歯(入れ歯)のお手入れ不足などが口臭の原因となります。お口のトラブルがある方は早めに歯科医師や歯科衛生士に相談し、ご本人の状態に合った口腔ケアを取り入れましょう。
口腔ケアについてはこちらの記事をご覧ください
安全においしく!介護初心者のための「口腔ケア」と「食事介助」
介護専用製品の利用
ニオイが気になる場所に、消臭剤や脱臭機、脱臭機能付空気清浄器などを置くのもひとつの方法です。
最近は、介護のニオイに特化した消臭剤や洗剤などが増えてきています。今まで一般的な消臭対策製品を使っていた方は、介護専用のものに替えてみるとよいでしょう。
介護用の紙おむつやパッド等を使用する場合は、抗菌・消臭効果の高いものがおすすめです。
お部屋のベッドサイドに置くポータブルトイレ(腰掛便座)のニオイが気になる方は、水洗式ポータブルトイレの購入を検討してみてはいかがでしょうか。ポータブルトイレは、水洗機能の付いたものも「介護保険 特定福祉用具販売」の対象になっています。(介護保険サービスについて詳しくは、お住まいの市区町村や地域包括支援センターにお問合せください。)
介護用の消臭剤ひとつとっても、無香料のものから香り付きのものまで種類はさまざまです。また、ハーブやアロマオイル、重曹などを活用するのもよいでしょう。介護をする方、される方の双方が少しでも快適な生活を送れるよう、お好みのものを見つけてみてください。
家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。
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