ご高齢者のうつ病は認知症と密接な関係があり、両者を区別するのは専門家でも難しいといわれています。また、ご高齢者はうつ病と認知症を併発することも珍しくありません。今回は、認知症と間違えやすいご高齢者のうつ病について解説していきます。
ご高齢者のうつ病
「老人性うつ病」と呼ばれる老年期のうつ病は、典型的なうつ病と症状が異なる場合があります。
ご高齢者のうつ病の主な特徴
・「症状がそろっていないうつ病」の頻度が高く、見逃されやすい。
・悲哀の訴えが少なく、気分の落ち込みやうつ思考が目立たない。
・意欲や集中力の低下、認知機能の低下がみられることが多い。
・身体的な不調(疲労感、めまい、不眠、食欲低下、痛みなど)を訴える場合が多い。
・不安症状があり、その背後にあるうつ病を見落としやすい。
・器質的な原因のうつ病や薬剤に起因するうつ病が若年者より多い。
・「血管性うつ病」の場合があり、脳血管性障害の患者はうつ病の可能性が高い。
ご高齢者のうつ病の要因
統計的には男性よりも女性の方が発症率が高く、「過去にうつ病になったことがある」「配偶者との死別・離婚」などが老人性うつ病のリスク因子となっています。加えて、下記のような誘発因子(重大なライフイベントや慢性的ストレス)を体験すると、うつ病を発症するリスクが高くなると考えられています。
ご高齢者のうつ病発症のきっかけ
・近親者やペットとの死別
・退職など社会的役割の低下
・施設への入所や子どもとの同居に伴う転居
・ご自身や身近な方の病気
・子どもの独立や離婚
・ご家族や友人とのいさかい
・ご家族の介護
・健康状態の低下
・経済的な問題 など
老人性うつ病と認知症の違い
ご高齢者のうつ病は、認知症と間違われることがあります。「もの覚えが悪くなった」「もの忘れが増えた」など記憶力の衰えに関する訴えが、うつ病の症状である可能性もあるのです。とくに65〜75歳のご高齢者でその傾向が強く、認知症外来を受診する方の5人に1人はうつ病だといわれています。
「老人性うつ病」と「認知症」を見分ける目安
老人性うつ病 | 認知症 | |
---|---|---|
初期の症状 | 身体的な不調・抑うつ症状など | 性格の変化・記憶障害など |
症状の進行 | 何かのきっかけで発症することが多い | とくにきっかけがなく徐々に進行する |
気分の落ち込み | 多い | 少ない |
もの忘れ | 自覚がある・忘れやすいと強調する | 自覚が少ない・取り繕う傾向がある |
妄想 | 心気妄想・罪業妄想・貧困妄想 | もの盗られ妄想 |
日内変動 | ある(朝方に調子が悪く夕方から良くなる) | とくにない |
ただし、老人性うつ病と認知症の症状には共通点も多く、併発している可能性が高いことから、見分けるのは専門医でも容易ではありません。また、認知症だけではなく、脳卒中やパーキンソン病とうつ病を併発している場合もあります。
さらに、服用しているお薬が抑うつを引き起こしている可能性なども考えられるため、ご自身やご家族だけで判断せず、医療機関に相談しましょう。
ご高齢者のうつ病の治療・予防
うつ病の治療
うつ病の治療には、「精神療法」や「薬物療法」、「環境の調整」などがあります。また、脳に電流を流す「電気けいれん療法」や、光を照射する「光線療法」などを行う場合があります。ご高齢者は複数の持病を抱えていることも多いことから、必要な検査や治療法の流れは人によってさまざまです。
うつ病の予防
ご高齢者のうつ病を防ぐためには、社会とのつながりを絶やさないことが重要です。
人との交流を持ち続ける
地域の活動や趣味の集まりに参加するなどして、積極的に人と関わりをもつようにしましょう。
たとえば、定年退職をしても、ボランティア活動や新しい仕事にチャレンジしたり、友人と交流を持ち続けたりすることは大切です。閉じこもりがちなご高齢者は、孤立しないようにご家族や周囲の方が声をかけましょう。
適度な運動を心がける
ウォーキングなどの適度な運動を続けてみましょう。運動が苦手な方は、ちょっとした買い物や散歩などで身体を動かすだけでも十分です。また、うつ病の発症には日光を浴びないことも関わっているといわれています。晴れた日に積極的に外出し、日光を浴びながら散歩などを楽しんでみましょう。
ストレスをため込まない
ご自身がリラックスできること、リフレッシュできることを見つけ、ストレスをため込まないことも重要です。
心配ごとがあるときは一人で悩まず、ほかの人に相談してみましょう。誰かと話をするだけで、気持ちが軽くなる場合もあります。
バランスのよい食事をとる
必要なビタミンやミネラル等が不足しないように、バランスのよい食事を心がけましょう。お酒を飲む方は、ほどほどの量を楽しむようにしましょう。
ご高齢者のうつ病の症状は、「歳のせいかな」と見逃してしまうことが少なくありません。また、介護をしているご家族もうつ病になりやすいため注意が必要です。
周囲の方が「今までと様子が違う」と気づいたら、早めに医療機関を受診するよう勧めてください。もし、うつ病に対する誤解や偏見がある場合は、「誰でもかかる可能性のある病気」であることを伝えるようにしましょう。
家族の介護をきっかけに介護福祉士・社会福祉主事任用資格を取得。現在はライター。日々の暮らしに役立つ身近な情報をお伝えするべく、介護・医療・美容・カルチャーなど幅広いジャンルの記事を執筆中。
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